格差が広がる自治体DX、唯一の打開策は「外から学ぶこと」──先行く5自治体の“成功要因”を探る
#1:自治体DXの課題は「人材と組織」に収斂する

いま全国の自治体は、重い腰をやっと上げてデジタル化・DX推進に取り組んでおり、それにともない様々な課題が噴出している。まさに「生みの苦しみ」という状況だ。ただし、今後これらの課題は「人材と組織」に収斂すると予想される。本連載では、第1回で自治体DXの現状と今後の課題について述べた後、5回にわたり「人材と組織」で先駆的な取り組みを実践している自治体を取り上げて、その解説を行う。
ガバクラ移行など後押しがあれど、進捗には“格差”
昨今、全国の自治体においてデジタル化・DXの機運が高まってきた。数年前まで「うちは関係ない」とだんまりを決め込んでいた自治体も、さすがに自治体情報システムの標準化(ガバメントクラウド移行)やDX推進計画の策定など政府(総務省、デジタル庁)から次々と出される指示に対応するために、デジタル戦略課を設置して専任者を配置するなど体制整備の動きを加速させている。遅ればせながら、日本全体で「自治体DXの機運が醸成された」と見てよいだろう。
ただし、その取り組みにはバラツキがあり、「格差」が生まれている。つまり、デジタル化・DXを先駆的に実践している自治体とそうでない自治体とで、その進捗に大きな差が出ているのだ。
その原因として考えられるのが、環境面における2つの要因である。1つは自治体の規模による体力の差(職員数の違い)、もう1つは地理的な環境の差(都市部か地方か)だ。これらの要因により、概ね都市部の大規模自治体は進捗が良く、地方の小規模自治体は進捗が悪い、という状況が生まれている。また、環境面以外でも、改革推進を阻む組織文化や政治的な理由など、様々な要因もあるだろう。
ただし、先駆的で進捗が良い自治体と言えども、デジタル化・DXを無手勝流に推進しており、課題が噴出している。現在の自治体DXは、よく言えば試行錯誤のフェーズであり、実際には暗闇を手探りで歩いている状況と言える。
担当者が悩むほど自治体DXは難しくない!
いま各自治体のデジタル戦略課に所属する皆さんは、「何かやらなくては」と焦っているのではないだろうか。上司からは「デジタル化・DXを推進してくれ」と曖昧な指示を受け、ネットニュースを見れば他の自治体がまた新しい施策を実施している。担当者なら焦らないはずがない。「うちの自治体では何をやればいいのか……」と朝起きてから寝るまで、真面目な職員ほど頭を悩ませる日々だと拝察する。
そんな皆さんへ朗報がある。下図をご覧いただきたい。これは、2024年4月に総務省が公表した「自治体DX推進参考事例集」(PDF)の第3章「内部DX」を筆者が分析したものである。ここにはデジタル技術を用いた34の先進事例が掲載されているが、それらの事例から抽出したキーワードを列挙してみた。電子契約やプッシュ型通知、書かない窓口、キャッシュレス、ドローン、RPA、ローコードといった12個の見慣れた言葉が並んでいる。

普段、民間企業(特に大企業)のデジタル化・DXを支援している筆者から見れば、正直言えば「たったこれだけ?」という印象を受ける。つまり、施策にバラエティがなく、やるべき施策は限られているのだ。ちなみに、民間企業のデジタル化・DXの施策はバラエティに富んでおり、文字通り「何をするか」で頭を悩ませる必要があるが、自治体DXの施策において「やるべきこと」はある程度決まっている。
各自治体のデジタル戦略課は、これらの施策に優先順位をつけて淡々と実行すればよい。もちろん、各市町村の歴史的経緯や組織文化、地域特性により、施策の重要度や実施する順番は違うので、それらを冷静に見極める必要はあるが、日本の自治体はそういった作業は得意なので、慌てずに計画策定・実施すれば、それほど難易度の高い業務とは思えない。
また、先ほどの12個のキーワードを見ると、技術的にも難易度が高くないことが分かるだろう。民間企業では既に普及している技術ばかりを利用しているのであり、受注先であるITベンダーも十分にノウハウを持っている。発注側の自治体から見れば、安心して発注できる内容だ。加えて、普及段階の技術のため、コスト的にも低いものばかりである。逆に言えば、自治体DXは税金を使って施策を実施することから、技術的にもコスト的にも安心感のある内容で発注すれば良い(それが正解である)。言葉を換えれば、自治体DXの施策は民間企業の後追いをすれば良いのであり、プロジェクトのリスクは非常に低いため、それほど難しくないと言えるであろう。
この記事は参考になりましたか?
- この記事の著者
-
角田 仁(ツノダ ヒトシ)
1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア