
2025年9月8日から4日間にわたり、Splunkの年次フラグシップイベント「.conf25」が開催された。いくつもの新機能が発表された中、データフェデレーションを推進するための「Cisco Data Fabric」など、より“AI時代”に適合する「Splunkプラットフォーム」へと進化していくための道筋が示された。その一方、Ciscoに買収された影響も色濃く反映されている。では、“Splunkとして”現況をどのように捉えているのか。2名のキーパーソンにうかがった。
「Splunkの戦略は変化ではなく、“進化”している」データフェデレーションに勝算
2025年9月8日から開催されたSplunkの年次フラグシップイベント「.conf25」には、多くの参加者が集った。Ciscoが2024年3月に買収を完了してから約1年半が経過する中、同イベントの講演や展示からは、Splunkとしての独立性は維持されながらも、Cisco製品との統合を進める形で「Splunkプラットフォーム」としての進化が促されている様子が見てとれた。
今回のキーワードとなるのは、間違いなく「AI」と「データ」だ。長くオンプレミス環境で利用されることの多かったSplunkは、インフラの調達・管理からの解放、スケーラビリティの確保といった優位性を掲げて「Splunk Cloud」へと移行を進めてきた。言うなれば、ビッグデータ時代のデータプラットフォームとして、あらゆるログデータなどを一元的に集約・分析することで価値を生み出そうとする取り組みだ。そして同社が今進めているのは、「データファブリック」に基づいた、AI時代にも適合するプラットフォームへの進化だろう。
このデータファブリックという考え方は、日本では2020年前後から注目を集めている。簡単に言えば、分散したデータを“1枚の布”のように織りあわせてデータを一元管理・活用していく発想だ。物理的にデータを一ヵ所で集中管理していた従来のデータマネジメントからの転換を図るものであり、オンプレミスやマルチ/ハイブリッド環境を問わずに柔軟にデータを活用したいという企業ニーズと合致したことで注目を集めている。
ここに「生成AI」による波が合流したことで、自社に存在する“あらゆるデータをAIに活用できる”データプラットフォームが求められるようになり、ベンダー各社が同じような方向性を向いた“AIのための機能強化”合戦に突入した。出自の異なるベンダーが自社の強みを活かしたプラットフォーム戦略を推し進める中、SplunkはITシステムから発生するデータだけでなく、「マシンデータ」も活かしていく。基調講演に登壇した、Cisco President and CPO(Chief Product Officer)を務めるジートゥ・パテル氏は、マシンデータによる学習がAIに不足していると指摘すると、CiscoとSplunkが一体となってAI時代に欠かせない、インフラ基盤を担っていくことを宣言した。
では、Splunkが目指す「AI時代のプラットフォーム」とは具体的にどのようなものか。その戦略の中核をなすのが、今回新たに発表されたアーキテクチャでありビジョンでもある「Cisco Data Fabric」だ。
個別取材に応じたSplunkのマンゲーシュ・ピンパルカーレ(Mangesh Pimpalkhare)氏(Senior Vice President and General Manager of Platform for Splunk)は、「Cisco Data Fabricは、まったく新しいものではなく、あくまでも『Splunk Platform』をベースに進化させたものだ。われわれが目指すアーキテクチャとビジョン、まさにそのものだと言える」と語る。Cisco Data Fabricは、Splunkがこれまで進めてきた戦略の延長線上にある一方、市場の要求に応えるための大きな転換点でもある。Splunkのカマル・ハティ(Kamal Hathi)氏(Senior Vice President and GM, for Splunk)も、この戦略を「変化ではなく、進化だ」と強調した。

「これまでのSplunkは、分析したいデータをプラットフォームに取り込むことを前提としていました。しかしデータ量が増大し、多くの企業が独自のデータレイクを持つようになった今、そのアプローチはコストとスケーラビリティという課題に直面しました。だからこそ、『データを動かすのではなく、Splunkをデータまで持っていく』という発想に切り替えたのです」(ハティ氏)
これが「データフェデレーション」であり、昨年の.conf24でも言及された「Federated Search for Amazon S3」につながる。オンプレミスやクラウド型データレイクやデータウェアハウスにデータを置いたまま、Splunkからクエリを実行して分析・可視化を行う。これにより、ユーザーはデータのコピー管理や大規模なデータ移行から解放され、既存のデータ資産をより迅速かつ低コストで活用できるようになった。これは長年Splunkユーザーが抱えていたであろう課題に対する、明確な答えとも言える。
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岡本 拓也(編集部)(オカモト タクヤ)
1993年福岡県生まれ。京都外国語大学イタリア語学科卒業。ニュースサイトの編集、システム開発、ライターなどを経験し、2020年株式会社翔泳社に入社。ITリーダー向け専門メディア『EnterpriseZine』の編集・企画・運営に携わる。2023年4月、EnterpriseZine編集長就任。
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