Workdayが突如打ち出した「次世代ERP」の定義とは?米国で語られた、その根底にある思想と価値観
「Workday Rising 2025」開催、大手データプラットフォーマーとの提携も発表

大手ERPベンダーの一角として知られるWorkday。人事・財務の領域で強みを持つ点が特徴だ。日本でも本格的なローカライズやサポートの体制を整え、ここ数年で一気にシェアの拡大を加速している。そんな同社の年次フラッグシップイベント「Workday Rising 2025」が、米国サンフランシスコにて9月15日~18日(現地時間)に開催された。昨年はAIエージェントの発表が目玉だったが、今年はそこから「エージェンティックAI」へと進化し、組織やシステムのサイロ化を打破する数々の大きな発表が行われた。特に、開催期間中に発表された同社の「Next Generation ERP」という言葉には、参加者からも大きな反響があった。
すべてのワークフローにAIを実装し、「人とAIが“自然に”協働する世界」を実現する
Workdayは米国サンフランシスコにて9月15日~18日(現地時間)、年次フラッグシップイベント「Workday Rising 2025」を開催した。昨年のイベントでは、次世代AIブランド「Illuminate(イルミネイト)」の発表で注目を集めたが、今年はそのさらなる進化や新たなソリューションの数々、エコシステムの拡大が発表された。

冒頭、CEOのカール・エッシェンバック氏は、Illuminateの進化と変革を強調。その根底にある3つのテーマと価値観を提示した。
- AI-powered:単一プラットフォームの中で、あらゆるワークフローにAIを実装する
- Human-centric:人間中心の世界。コラボレーションやイノベーションなど、人が“人にしかできないこと”に全力を注げる世界を作る
- Future-ready:人とAIが自然な形で協働する、新たな働き方のスタンダードを確立する
カール・エッシェンバック(Carl Eschenbach)氏
実際、今回のイベントでの発表も含め、人事や財務の既存業務、さらには業界ごとの固有の業務課題に対し、この1年でWorkdayは数々のAIエージェントとエージェンティックAIを開発してきた。また、AIのブラックボックス化、いわゆるシャドーAIの問題を解決するエージェントの一元管理ソリューション「Agent System of Record(ASOR)」を業界に先駆けて発表し、すでにマルチベンダー環境に対応していることは、印象的な出来事として日本でも話題となった。
新たなIlluminateエージェント:単なる自動化ではなく「ロールベース」のエージェンティックAIへ
昨年のWorkday Risingでは、Illuminateの発表と同時に最初のAIエージェントとして、「採用」や「経費精算」などの機能を持つ4つのエージェントが発表された。
当時はまだ、タスクベースで業務の自動化を実現するアシスタントという位置付けだった。しかし、2025年の5月に入ると、そうした様々なタスクの自動化を集約した8つの「エージェンティックAI」が発表された。これにより、単なる自動化ではなく、人とエージェントが自然と組織内で協働する世界を実現することが可能になった。
そして今回のイベントでは、HR(人事)と財務の分野でさらに新たなエージェンティックAIが発表された形だ。
HRエージェント
- Business Process Copilot Agent(ビジネスプロセス・コパイロットエージェント):新規ビジネスプロセスの実装、設定、構築を自動化
- Case Agent(ケースエージェント):書類などの管理業務を自動化し、解決時間の短縮、業務効率の向上、従業員体験の向上を支援
- Document Intelligence for Contingent Labor Agent(派遣労働者向けドキュメントインテリジェンスエージェント):SOW作成を加速し、義務を追跡し、契約間の整合性を促進することで、コスト削減とリスク軽減を支援
- Employee Sentiment Agent(従業員感情エージェント):従業員フィードバックを継続的に分析し、洞察を提供し、大規模なアクションを可能にすることで、人材リーダーを支援
- Job Architecture Agent(職務体系エージェント):職務ラダーの作成と管理を自動化し、整合性、俊敏性、スケーラブルな成長を促進
- Performance Agent(パフォーマンスエージェント):様々なエンタープライズアプリケーションからのパフォーマンスデータを分析し、評価を効率化し、アクションを推奨
財務エージェント
- Cost & Profitability Agent(コスト&収益性エージェント):ユーザーが自然言語で配分ルールとドライバーを定義可能に。これにより、より深いインサイトを提供し、コストと収益性の設定を簡素化
- Financial Close Agent(決算処理エージェント):自動化とリアルタイムでの可視化により決算プロセスを簡素化・効率化
- Financial Test Agent(財務テストエージェント):財務データの継続的なテストにより不正検知とコンプライアンス対応を支援
特に、新たなHRエージェントの内容は、日本企業にとっても大きなインパクトとなりそうだ。今回の発表では、プラットフォームの対象が正社員だけでなく派遣労働者にも広がった。そして、従業員感情や職務体系、パフォーマンスを司る、日本企業のイノベーションや「人的資本経営」のニーズにも対応できそうなエージェントが出たことも注目だろう。
同社で製品(Product)と技術(Technology)を統括するゲリット・カズマイヤー氏は、基調講演で次のように述べた。
「多くの組織では、AIを導入してもスケーリングできておらず、自動化の先にある“新たな価値の創出”にたどり着けない『無計画な自動化』に終始しているのが現状です。また、これまでのようなクローズドなプラットフォームでは、自社開発にも限界があります。そこでWorkdayは、AI時代のオープンなプラットフォームによってERPの再定義を進めているのです。言うなれば、『Next Generation ERP』です。これからの時代は、単に記録するのではなく“行動するシステム”こそが組織に真の成果をもたらすでしょう」(カズマイヤー氏)
ゲリット・カズマイヤー(Gerrit Kazmaier)氏
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティ、AI、データ関連技術や、それらに関する国内外のルールメイキング動向を発信するほか、テクノロジーを活用した業務・ビジネスモデル変革に携わる方に向けた情報も追っています。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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