Salesforce活用とBizOps──自社のストーリーで運用する
ここで改めてSalesforceに触れます。
Salesforceは顧客接点からバックオフィスまでをカバーし、戦略からオペレーションまでを1貫して扱える稀有なプラットフォームです。だからこそ、主役はツールではなく「自社のストーリー」であることを忘れてはいけません。自社が描く独自の設計図である「顧客価値、提供体験、収益の仕組み、人とチームの働き方……」これらを、Salesforceという土台で実行可能にする。重要なのは、その橋渡しと継続的な実行を担うBizOpsのような役割を社内に持つことです。
実際、Salesforce社の公式ヘルプページにも、適切な人員の配置について言及があり、一定の規模を迎えた企業においてはビジネスアナリストを体制に組み込むことを推奨しています。

ビジネスアナリストは国内の中小企業ではあまり馴染みのない職種ですが、ビジネス要求と仕組みを一体で管理する横断的な役割を担う人材を指します。この図が示しているのは「ユーザー数が少ないうちは、そのような役割が不要」という意味ではなく、Salesforceを導入し管理していくという文脈の中に、「ビジネス要求を管理するというニーズ・必要性が元々含まれている」という示唆だと解釈をしています。
さて、BizOpsのような横断的な役割、組織を作る場合によくある失敗は、これまで語ってきたように、「型」だけを模倣したり事例を踏襲したりするようなケースです。ベストプラクティスは参考にしつつも、自社固有の状況に合わせて設計し、運用していく力が必要です。
ここで、筆者も創設時からアドバイザーとして参加している一般社団法人BizOps協会を紹介させてください。

ここまで、変化に合わせ動的に戦略と実行を調整しつづける経営機能の重要性を書いてきました。
しかし、当然ながら抽象度の高い戦略や業務設計と、具体的なツールの選定や活用といった具体を行き来するというのは簡単なことではありません。ビジネスもITも高いレベルで理解するスーパーマンというのは簡単に育成できませんが、現在進行形でそのような責務を要求されるビジネスパーソンも多くいるのが実情です。
そうした実務者には、Salesforceや各種SaaS、DWH等のツール活用方法だけでなく、自社の事業課題・ビジネス要求の理解、これらを1体とした「実践的なナレッジ」が必要です。
BizOps協会では、各社の成長戦略の実行可能性を担う熱量ある人材たちが、自身の課題やナレッジを共有し、それぞれが自社ならではのプラクティスを発想するため、活発に意見交換や知見の発表をしています。Salesforceに限らず、ITの活用と推進を担われているかたは、協会のイベントへ1度足を運んでみて頂きたいと思います。
顧客や事業のために、何を解決すべきかを考えること。その橋渡し機能としてのBizOpsを経営に組み込むこと。これこそが、変化の時代に成長を続けるための鍵だと考えています。
さいごに
全6回の連載にお付き合いいただき、ありがとうございました。Salesforceの活用現場でのこれまでの知見・視点を通して書きましたが、どの企業にも共通するような内容も多かったと思います。
さらに学びを深めたい方には、拙著『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』もぜひ手に取っていただければ幸いです。 Salesforceの枠を越えて、ユーザ企業がIT活用で成果を出すためのエッセンスを詰め込んだ1冊になっています。
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- この記事の著者
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佐伯 葉介(サエキヨウスケ)
株式会社ユークリッド代表。SCSK、フレクト、セールスフォース・ジャパンを経て、2019年にリゾルバを創業。2023年にミガロホールディングス(東証プライム)へ売却。著書『成果を生み出すためのSalesforce運用ガイド』(技術評論社)。一般社団法人BizOps協会エキスパート。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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