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GenAI登場で大きく変わったAI開発者の仕事、WorkdayのAIリーダーが重んじる開発の哲学とは

ナイキのAI責任者を経てソフトウェア企業へ、AIの変遷とともに歩んできたシェーン・ルーク氏に尋ねる

「Illuminate」開発の舞台裏、Workdayが貫いたモデルとデータへのこだわり

 Workdayの近年の大きな発表の一つとして、「Illuminate(イルミネイト)」が挙げられる。2024年のWorkday Rising(ラスベガス開催)で発表された次世代AIブランドだ。当初は初期エージェント群として、人事・財務分野の業務効率化を支援するタスクベースの4つのAIエージェントが発表されたが、2025年には様々な業務遂行能力を集約したロールベースの“エージェンティックAI”へと進化させ、人とAIが自然と協働する世界を実現している。

【参考】これまでのIlluminateの歩みと進化

2024年9月:Illuminate発表

2025年5月:タスクベースからロールベースの“エージェンティックAI”へ

2025年9月:さらに新たなエージェントを拡充

 このIlluminateの開発過程では、「技術面とブランド面で課題に直面した」とルーク氏。

 まずはブランド面について。それ以前に同社が提供していた「Workday AI」はわかりやすい名称だったが、Illuminateは洗練されている反面、その名称だけでは何をするものかが伝わりにくい。そこで、Illuminateというブランドの傘の下にWorkdayのAI機能をすべて統合し、顧客には「Illuminateに含まれる機能は、すべて『WorkdayのAI製品群の一部』だ」と理解してもらうことしたのだという。

新たなIlluminateエージェントも続々と発表された。各エージェントが、Workdayのプラットフォームが強みとする人事・財務領域を中心に複数の役割を備え、ロールベースでまるで一人の従業員のように業務を遂行する。
2026年中に提供開始予定の、新たなIlluminateエージェントも続々と発表された。各エージェントはロールベースで設計されており、Workdayのプラットフォームが強みとする人事・財務領域を中心に複数の役割を備え、まるで一人の従業員のように業務を遂行する。

 次に技術面について。ルーク氏は、「Workdayの特徴的なテナント方式を維持することが最大の課題だった」と当時を振り返る。同社のプラットフォームは、顧客ごとに独立したソフトウェアインスタンスを提供している。顧客のデータがAIのアクセスや行動、学習によって他社データと混ざってしまい、流出するリスクを防ぐ仕組みを構築するためだ。

 Illuminateでもこの原則を貫く必要があった。しかし、これは昨今誰もが利用しているような、一般的なAIの開発手法とは相反する要求だった。たとえばChatGPTやGemini、Claudeなどは、可能な限り大量のデータでモデルを学習させることを基本としている。Workdayもこれらのモデルを活用することはあるが、顧客データの混合は何としてでも防ぎたかった。

 企業の基幹を支えるプラットフォームとしては、データの分離は何よりも重要だ。自社データが競合他社の利益になってしまったり、データが漏洩してしまったりするリスクは誰もが懸念してることだろう。AIがあらゆるユーザーのデータを大規模に取り込んで学習を行えば、当然このリスクは高まっていく。ルーク氏は「この数年間、データを混合しない仕組みの構築に力を注いできた」と語る。

開発者にも予測困難な、エージェンティックAIの「自律性」 システムの新たな設計開発アプローチが必要に

 世界は今やエージェンティックAIの話題でもちきりだが、Workdayの開発現場にも大きな変化が生じているという。まず、社内の開発効率が大幅に向上したようだ。CursorやGitHub Copilotなどのコード生成ツールを活用することで、エンジニアの生産性が30~40%向上したとのことだ。

 一方で、顧客向けのエージェント製品の開発では、新たな技術課題が生まれている。それは、エージェンティックAIの「自律性」だという。これはユーザーにとっては紛れもなくポジティブな側面だが、モデルの開発者にとっては新しいチャレンジだった。どういうことか。

 「エージェント型のシステムは、ユーザーが何をすべきか細かく指示する必要がない点が強力です。目標を与えれば、その目標を達成するためのタスクセットを自ら確立します。しかし、これが開発上の問題を生みました。エージェントがどんな回答を出すのか、どんなプロセスをたどるのかを開発者が予想できないのです。これにより、従来のように“固定的なUI”を前提とした製品設計ができなくなりました」(ルーク氏)

 この問題の解決策として、Workdayはエージェント自身がUIを生成するシステムを採用した。同社のエージェントシステムは3階層のアーキテクチャとなっており、最後の層で稼働するAIがUIを生成する仕組みになっている。

 この製品開発アプローチへシフトしたことにより、開発者の役割にも変化が生じた。今までのUI開発業務ではUIそのものを開発していたが、次第にUIを生成するモデルの開発・調整が主業務となっていったのである。

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AI開発で重んじる3つの柱、根底にある“Human-centric”

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この記事の著者

森 英信(モリ ヒデノブ)

就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...

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