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社員が作った便利なツール、それは会社のもの?それとも社員の「発明」?ある裁判から見えた判決のポイント

営業職員が考えた改良アイデアを巡って紛争に

東京地方裁判所 令和5年11月24日判決より

 ある半導体製造装置メーカーの営業担当社員(以下、元社員)が、半導体ウェハスの検査装置(プローブ装置)の改良アイデアを考案し、会社に提案した。

 従来のプローブ装置は、検査針をウェハーに接触させる際、垂直方向(Z軸)にのみ動かしていた。しかしこの方法では、針が電極パッドを傷つけてしまい、製品の歩留まりが低下するという問題があった。

 原告は、垂直方向だけでなく水平方向(X軸、Y軸)にも針を微移動させることで、この問題を解決できると考案した。このアイデアは特許として登録され、製品に実装された。

 会社はこの発明により多額の利益を得たが元社員が退職後、「このアイデアは自分が職務外で考えたもので、会社に権利はない」として、約37億円の対価を求めて提訴した。

 この事件は、典型的な職務発明を巡る紛争です。前述の通り、この発明によって会社は多額の利益を得たようですが、元社員は「これは職務発明ではなく、利益は自分が享受すべき」だと訴えます。元社員は営業職員であり、技術者ではありませんでした。そんな自分の職務は顧客の課題を見つけて提案するところまでであり、「検査装置の改良は職務を超えたものであるから、職務発明には当たらない」という主張です。

 これに対し、会社側は「元社員は“8級職”という高度な専門職にあり、製品の性能評価・分析・改善も職務に含まれていた。職務記述書にも『改善』と明記されている」と反論しました。

どこまでが“職務”か?

 元社員の主張にも頷ける点はあります。たしかに営業職本来の仕事から考えれば、検査装置の改良は職務外であるようにも思えます。実際、ある程度の規模の会社であれば営業部門と技術部門で役割が分かれているのが多数派でしょうし、この会社もそうだったようです。仮に、この会社とは関係のない技術者が同じような工夫を思いついて会社がそれを採用したなら、相当の対価を支払うでしょう。そうであれば、自分に対しても同じように対価の支払いがあって当然だと元社員が考えるのも、無理のないところかもしれません。

 一方、会社側は、元社員の職務には「改善」が含まれていたと反論します。元社員は単なる営業職ではなく、「テクニカル・サポート エンジニア」という技術的な知識を持つ専門職であり、職務記述書にも「機器の改善」と明記されていたというのです。

 この「改善」という言葉の定義がなかったことが、問題を法的紛争にまで発展させてしまったのかもしれません。しかし、そもそもこうした元社員の発明や、私が昔ツール類を作ったような行動が「職務発明」にあたるのかどうか、その線引きについて裁判所はどのように判断したのでしょうか。判決の続きを見てみましょう。

東京地方裁判所 令和5年11月24日判決より

 職務発明とは、発明をするに至った行為が従業者等の職務に属する発明であり、従業者等により職務の遂行としてされた発明をいうと解される。そして、当該従業者等の地位、職種、職務内容、職務上の経験、使用者等の当該発明完成過程への関与の内容・程度等の諸般の事情に照らし、当該発明をすることが当該従業者等の職務上の行為として予定され、期待されている場合、従業者等によって職務の遂行として当該発明がされたといえると解される。

(中略)

 被告における「テクニカル・サポート エンジニア」の職務内容には、「機器の技術的サポート(高度な技術を提供する)」を行うとされており、その具体的な業務内容として、「機器の技術的な性能評価・分析・改善・管理」等が明示的に含まれていた。

(中略)

 上記のとおりの原告の地位、職種、職務内容等に照らせば、被告の製品の課題の発見やその改善の方法の検討、提案は、原告の職務として予定され、期待されていたものであると認められる。したがって、原告は、職務の遂行として本件各発明をしたとするのが相当である。

次のページ
“職務規程”が判決のポイントに

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この記事の著者

細川義洋(ホソカワヨシヒロ)

ITプロセスコンサルタント東京地方裁判所 民事調停委員 IT専門委員1964年神奈川県横浜市生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。大学を卒業後、日本電気ソフトウェア㈱ (現 NECソリューションイノベータ㈱)にて金融業向け情報システム及びネットワークシステムの開発・運用に従事した後、2005年より20...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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