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東京郊外のベッドタウン昭島市、人口約11万人の「中規模自治体」の強みを活かしてDXに挑戦

#6:東京都昭島市 | 規模のメリットや多摩地区特有の連携を活かす

“顔の見える規模感”だからこそできる能動的なサポート

 昭島市の2つ目の成功の秘訣は、自治体の規模を活かしたDX推進である。昭島市は人口11.6万人の中規模自治体であり、行政職の職員数は約650名である。ほぼ全員がお互いの顔に見覚えがあり、いわゆる「顔の見える関係」である。

 小林氏はこの「顔の見える関係」を活かして、様々な活動を行っている。たとえば、原課のDX推進。多くの自治体では、DX推進のために各課にキーパーソンを任命しており、昭島市もその例外ではない。小林氏は各課で誰が業務を回しているか、誰を押さえれば該当プロジェクトが進捗するのかについて把握しており、能動的なサポートができている。

 また、DX推進のキーパーソンや意欲ある若手を「一本釣り」によりワーキンググループに抜擢するなど、プロジェクト立ち上げ時には若手職員のモチベーションアップにも配慮。情報交換のためのコミュニティ設置など積極的に若手職員が参画できる仕組みを取り入れ、そこで出された意見を吸い上げ施策に反映することで「言っても無駄」「前例踏襲は変えられない」という閉塞感を払拭しているという。若手職員が「自分たちの意見や考えも施策に反映される」という成功体験を重ねることで変革へのモチベーションを高めて欲しいからであると話す。

 ちなみに、人口50万人以上の中核市(大規模自治体)になると行政職だけで数千名の規模になり、「顔の知らない関係」となる。組織数も原課の部署数が100課を超えるため、昭島市のような「デジタル部門からの直接支援」はあまり現実的ではない。逆に小規模の自治体では、「ひとり情シス」のデジタル部門・IT部門が多く、これもまたリソースの観点から直接支援することは難しい。これらのことから、中規模自治体は最もDX推進に適していると筆者は考えている。

“すぐに相談できる”近隣自治体「多摩26市」の存在も

 3つ目の成功の秘訣は、多摩地区特有の緊密な連携である。東京都の多摩地区には26市あるが、小金井市・国分寺市・東久留米市など同規模の自治体が多い。東京都の地図を見ると、狭い地域に同じ規模の市がいくつも密集していることが分かる。

 「同じ地区、同じ規模ゆえに、近隣の自治体は歴史的に同じ課題を抱えることが多く、議会においても『他市の状況は?』と質問されることが多いですね。それゆえ、以前から事ある毎に情報交換を行う文化があります」(小林氏)

 たとえば、東京都へ何か要望等を行う場合、26市(+町村)の連名で提出することが通例となっており、自治体間での連携に対するハードルは低いという。

 小林氏はこの緊密な関係性を活かして、デジタル化・DX推進で何か悩み事や課題があると、近隣自治体の担当者と電話1本・メール1本で気軽に相談できる関係性を築いている。そのため、普段から彼らとの信頼関係は欠かせない。また、昭島市・福生市・あきる野市・羽村市・多摩市の5市共同で情報セキュリティの相互外部監査に取り組むなど、具体的な施策も行われている。

 ちなみに、筆者がCIO補佐官を務める松山市(愛媛県)では、同規模の自治体との連携を模索すると、県外の高松市や岡山市まで足を伸ばす必要があり、決して気軽な関係とは言えない。その点、小林氏の活動は大都市圏特有と言えるだろう。

 なお、東京都には「GovTech東京」というDX推進のための外郭団体があり、そこが中核となって東京都全域の自治体DXの支援を行っているという側面もある。東京都庁・23区・26市のDX推進が全体的に順調なのは、東京というヒト・カネ・情報というリソースが潤沢であることに加え、その組織の下支えがあることも付記しておきたい。

 以上、本稿では昭島市のDX推進について、組織文化の醸成や規模のメリットを活かした活動、多摩地区特有の緊密な連携といった観点から描いた。昭島市および小林氏の強い意志と熱意ある取り組みは特筆に値すると筆者は考える。今後、陰ながら応援していきたい。

 本連載(全6回)は本稿で終了であるが、筆者は今後も自治体DXの先端的な事例に関わっていきたいと考えている。また、何かの機会に読者の皆様と再会できれば幸いである。

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現在...

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