情シス一筋30年:PCもAIも、時代は変われど「どう提供するか」がその後の生産性を左右する
第43回:バンダイナムコ ホールディングス 情報システム部 ゼネラルマネージャー 暉由紀さん
デジタル時代の幕開け「PC普及」に奔走した日々が今も根底に
酒井:ここからは暉さんのキャリアを聞かせてください。ITとの出会いは、いつですか?
暉:10歳ですね。
酒井:早い!
暉:誕生日にポケットコンピュータ、いわゆるポケコンを買ってもらったんです。プログラミングができる電卓の化け物みたいなやつで、BASICでプログラムが書ける。これにのめり込んで、漠然と「この道で食べていこう」と。就職活動でも、情報システム部かSIerか、そのどちらかしか考えていませんでした。
1995年にバンダイに入社し、念願の情報システム部に配属されました。ちょうどWindows 95が発売された年です。ただ、当時はまだ社員に1人1台のPCはなく、部門に共用のPCが1、2台あるだけ。社員は黒い画面に緑の文字がチカチカするダム端末で仕事をしていました。入社する前の年まで部署の名前は「経理部電算課」で、ITというよりは「電算」の時代。これから「IT」に変わっていこうという、まさに転換期でした。

酒井:最初に任されたミッションは何だったんですか?
暉:「PCを定着せよ!」です。全社員にPCを配って、クリックの仕方からレクチャーしました(笑)。メールに慣れてもらうのも大変で、「電話とファックスがあるのに、なぜメールを使わなきゃいけないのか」といった方々を説得する日々でしたね。同期にもう一人IT好きがいて、2人で必死にやっていました。自作でオリジナルの“パソコン検定”まで作って、しかも初級・中級・上級まで用意したかな。それを全社員に受けてもらったり、Excelの使い方テキストも自作したりしました。
PCが定着した後もまた一苦労。現場にExcelマスターが現れて、化け物みたいなファイルを作り始めるんです。その人が異動すると誰も引き継げず、結局こちらに「どうにかしてくれ」と駆け込んでくる。
決して思い描いていた情シスの仕事ではなかったんです(笑)。でも、この経験があったからこそ、「提供の仕方を間違えると全社員の生産性が下がる」ということに早い段階で気づけました。間違ったものを間違った形で渡したら、みんなが毎日数分ずつムダにする。当時は「PC」でしたが、今は「AI」でまったく同じことが起きています。あの頃の感覚が、30年経った今もそのまま判断の軸になっています。
情シスは「判断職」事業に愛着のある戦略家がリーダーになる時代
酒井:キャリアを振り返って、情シスの仕事はどう変わりましたか?
暉:今の情シスって、もうシステムだけの仕事ではないんですよね。私自身、プログラミングはもうしていないし、設計もしていません。自分でコンフィグを打ちますかと言ったら、打ちません。では何をしているかというと、いま何が求められていて、会社の環境や世の中がこうだから、この選択をしようと、そういう判断をする仕事になっている。技術職というより判断職ですよね。仮に「情シスは技術職だから女性にはちょっと」という感覚があるとしたら、もうそういう話ではなくなっています。むしろそれで構えてしまうようなら、技術職と捉えない方がいいんじゃないかと思いますね。
酒井:暉さんは、情シスが技術職ではなくなっていくことをどう感じますか?
暉:寂しいですよ。やはり私たちの仕事は手を動かしてなんぼだと思うので。でも、それとリーダーに何が必要かは別の話です。技術のことは外部にお願いできる。情シスの一番の強みは、自社のビジネスを知っていて、事業に愛着があることなんです。だからこそ、「この領域にこの技術をはめたら、こんなにいいことが起きるんじゃないか」という発想ができる。一手打つだけで大きく良い影響が広がる場所はどこか。それを考えられる人がリーダーになった方がいい。

酒井:暉さんはコロナ禍前から場所にとらわれない働き方の整備にも取り組まれてきたそうですね。プライベートとの両立で意識していることはありますか?
暉:毎朝5時15分に起きて、1時間は好きなことをする時間にしています。仕事はしない。それだけですけど、その1時間のおかげで、その日を自分のペースで始められる。両立なんて大げさに考えず、ただ、自分のための1時間を確保する。それくらいのことでいいんじゃないかなと。
ちなみに、会社では「効率化だ、生産性だ」と言ってますけど、家の中はまだ思うようにスマート化できていません。一時期アレクサに電気を消してもらっていたんですけど、自分で消した方が早いと気づいてからは放置しています。唯一使うのは、ブーツを履いた後に電気の消し忘れに気づいて、玄関から「アレクサー!電気消してー!」と叫ぶときくらい(笑)。最近は勝間和代さんのYouTubeを観て、ヘルシオに味噌汁を作ってもらおうかなと思っているところです。
この記事は参考になりましたか?
- 酒井真弓の『Enterprise IT Women』訪問記連載記事一覧
-
- 情シス一筋30年:PCもAIも、時代は変われど「どう提供するか」がその後の生産性を左右する
- グローバル人材企業のCIOに根付く「アーキテクトの経験」と「最悪に備える前始末の精神」
- 150人のIT人材をどう動かす?三井不動産が「AIエージェント」と「交換留学」で狙う組織の...
- この記事の著者
-
酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
この記事は参考になりましたか?
この記事をシェア
