情シス一筋30年:PCもAIも、時代は変われど「どう提供するか」がその後の生産性を左右する
第43回:バンダイナムコ ホールディングス 情報システム部 ゼネラルマネージャー 暉由紀さん
バンダイナムコホールディングス 情報システム部 ゼネラルマネージャーの暉由紀さんは新卒から一貫して情シスのキャリアを歩む。Windows 95が発売された1995年にバンダイへ入社し、社員にPC操作を教えるところから情シスのキャリアが始まった。30年を経た今、グループのIT戦略を統括し、グローバルガバナンスの設計からAI活用のルール整備まで手がける。自身を「あまり自信がない」「自分で切り開くタイプではない」と明かす暉さんが、それを補うように積み上げてきたものとは。情シスが技術職から「判断職」へと変わりつつある今、リーダーに必要なものを聞いた。
“面白い社員”のアイデアを横展開していきたい
酒井真弓:まず暉さんの役割と、特に力を入れていることをお聞かせください。
暉由紀:大きく2つです。グローバルのセキュリティやデータガバナンスの方針づくりと、国内のグループ約30社へのITサービス提供。その中で特に注力しているのが、内製化です。外部にお願いすると、どうしてもこちらの意図が伝わりきらないことがあります。社員同士で進めるほうが、我が事で業務理解もあるから割と一発で決まる。手戻りも少ないんです。
今は主に「intra-mart」というワークフロー基盤の上で、申請系システムを中心に開発しています。グループのある会社向けに作ったシステムを他社にも展開できるのが、シェアードサービスの強み。まだ小粒なシステムが多いですが、徐々に大きな案件にもチャレンジしていきたいです。
酒井:データ活用も積極的に取り組んでいる印象があります。
暉:データ活用は、個社や事業のレベルでは既に成果が上がっています。グループ横断でのデータ活用も進んでいますが、データガバナンスのルール整備がこれからですね。ここが整うと、より活用が加速していくと考えています。たとえば、データレイクに集めてBIで可視化するところまでは整備されているのですが、「このデータを誰が見ていいのか」「誰がOKを出せば共有していいのか」といったルールが決まっていないから、積極的に活用できていない。しかもこれからAIが本格的に入ってくると、人間とは比べものにならないスピードでデータを読み込んでいく。ルールが曖昧なまま走らせるわけにはいかないので、ここは急がないといけないですね。
当社は面白い社員が多く、新しいことを思いつく人はたくさんいます。でもそうした良いアイデアや取り組みを、グループで横展開する仕組みがまだ弱い。そこを整えるのも私の役割だと思っています。
先手を打って「やっておいてよかった」の積み重ね
酒井:グループ情報セキュリティ委員会の初代事務局長も務められたそうですね。グループ各社との連携体制はどう整備されたんですか?
暉:もう十数年前になりますが、本を読んで、「よし、この通りに作ろう」と(笑)。CISOを置いて、各社に係を設け、名簿を整備し、規程集にセキュリティポリシーを組み込んでいきました。体制自体はかなり早くできたと思います。ただ、仏作って魂入らずで、しばらくは「言われたからやってみましたけど」という空気が続きましたね。
変わったのは、世の中の方が追いついてきてからです。今は生きていること自体がデジタルじゃないですか。スマートフォン、SNS、クラウドと次々に登場し、ビジネスとITが直結するようになった。そうなると「これは危ない」と社員一人ひとりが自分で察知するようになるんですね。経営陣の関心も非常に高く、セキュリティ施策を持っていくと「これでは手ぬるい」と追い返されるくらいです(笑)
酒井:暉さんは、常に先を読み、切り開いていくタイプのリーダーですね。
暉:いや、私は自分で切り開くタイプの人間ではないんですよ。あまり自信がないというか、内心おどおどしていて、説得に行くのも得意ではないですし、たまたま周りに力のある人がいて、たくさん助けていただきながら進めてきました。「こうするべきだ」と思っても、「あれがまだ揃ってないから難しそうだな」などと悩んでいるうちに何年も経っているということも結構あります。ただ、先に仕込んでおいたものに結果が追いついてきたとき、「あぁ、やっといてよかった……」と。その積み重ねです。
酒井:グローバル対応にも早くから取り組まれたそうですね。
暉:当社は2005年9月にバンダイとナムコが経営統合してできた会社で、国内でもシステムはバラバラ、海外はなおさらでした。ガバナンスも統制が効いていなかったんです。でも、これは困るだろうと、2014年にグローバルでMicrosoft 365(旧Office 365)の導入を提案しました。
海外だけでも子会社が50社ほどありますから、個別に対応するのは非現実的です。そこで各リージョンに協力者を見つけて、その人を中心にその地域内でサービスを提供できる体制を作ってもらったんです。最初はなかなか理解を得ることが難しかったのですが、今となってはこれがグローバルガバナンスの肝になっています。「やっておいてよかったじゃん案件」の一つです。誰も褒めてくれないですけど(笑)
酒井:言葉も文化も違う中で、どうやってまとめていったんですか?
暉:その2年ほど前から、年に1度、グローバルのIT担当者を集めて顔合わせの場を作っていました。ミーティングの後は、みんなでわいわい食事に行く。今でも続けています。実際に面と向かって話をしてみると、「私もそうだと思ってた」と共感してくれる人ばかりで、志を共有できたんですね。グローバル対応は、仕組みの話をする前に、関係性を作ることが重要なのだと実感しました。
酒井:結局は人と人なんですね。
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酒井 真弓(サカイ マユミ)
ノンフィクションライター。アイティメディア(株)で情報システム部を経て、エンタープライズIT領域において年間60ほどのイベントを企画。2018年、フリーに転向。現在は記者、広報、イベント企画、マネージャーとして、行政から民間まで幅広く記事執筆、企画運営に奔走している。日本初となるGoogle C...
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