Excelでの管理、レガシーシステムによる分断……AIの前に考えるべきデータの問題と「4つの処方箋」
「データを使う」段階から「成果を出す」段階へ進めるために
AIの急速な進化により、データ利活用環境の重要性がますます高まる一方、実際の日本企業に目を向けてみると、データの整備は思うように進んでいないのが現状です。現場主導型の業務進行から抜け出せず、いまだに必要なデータが部門個別のシステムやExcelファイルなどに分散し、適切なデータが集められない状況は珍しくありません。こうした課題を根本から解決し、企業全体で業務プロセスとデータを統合・活用するためには、どのようなステップで進めるべきか。連載「理想論で終わらせない『AIのためのデータ整備メゾッド』」では、データ活用の環境整備を進めていく中で生じる課題の解決法に現場目線で触れながら、再現性のある具体的なアプローチを解説。データ活用基盤の構築から継続的な運用を実現するための取り組みまで、IT部門の役割とともに提言する。
日本企業のデータ利活用を阻む「4つの壁」
AI活用への期待が高まる一方で、AIを動かすための燃料ともいえるデータの整備が追いつかず、活用が限定的になっている日本企業は非常に多いです。その背景には、データの分散・サイロ化、部門ごとに最適化された複雑な業務プロセス、そして改修が難しいレガシーシステムの存在など、根深い課題が横たわっています。
また、本来これらの課題解決にあたって組織をけん引する役割を果たすべきシステム部門も、日々の運用保守や事業部門からの依頼に追われ、プロアクティブな関与が難しい状況に陥っていることが少なくありません。
そこで本連載では、AI時代のデータ利活用を実現するためのステップを「データの把握」「データの整備」「データの活用」の3フェーズに分け、「データの整備」までの実践的なアプローチを解説していきます。第1回となる本稿では、出発点である“課題の把握”に焦点を当て、なぜ多くの企業がデータ利活用の入り口でつまずくのか、その構造的な原因を深掘りします。
データ利活用を進めるにあたり、まずは自社データがどういう状態にあるのか、必要なデータが取得できるのか把握する必要があります。ところが、いざ整備をしようとしてもデータ周りの課題が散在していて、どこから手をつけて良いのか分からないようなケースも少なくないでしょう。特に、日本企業で障壁となりやすいデータ整備の課題には以下の4つが挙げられます。
1. データの分散・サイロ化
従来、多くの日本企業では、業務部門単位でニーズに応じてシステムが発注され、部分最適で構築されることが一般的でした。その結果、各部門が独立してシステムを管理するため、必要なデータを部門横断で取得できない“データのサイロ化問題”が生まれます。たとえば、営業部門と製造部門が異なるシステムを利用している場合、顧客情報や生産データが相互に連携されず、同じデータであっても管理方法が異なるため、全社的なデータ分析や業務の最適化が困難になる、といったようなケースです。
さらに、SNSやIoTの普及によるビッグデータブームの時代には「とりあえずデータを集めよう」という動きが加速した結果、データの品質が低下したり、セキュリティや管理体制の不備が目立ったりするようになりました。こうした要因が、企業におけるデータ活用のさらなるボトルネックになっているケースもあります。
2. 業務プロセスの壁
システムが部門ごとに構築されているのであれば、当然業務プロセスも分断されています。業務プロセスが標準化されていないために、部門を横断するデータ連携や業務自動化が進まず、データ活用が阻まれているケースは往々にして見られます。
このような場合、業務プロセスが属人化しており、手作業が多くなる傾向が多いです。そして、それを補完するために個別の部門システムが増えたり、独自で作り込んだExcelファイルが混在してしまったりすることで、必要なデータがどこにあるのかますます分からなくなっているのです。加えて、システム部門が把握していないシステム、いわゆるシャドーITが生まれることで、ガバナンスが効かないというリスクもあります。
3. レガシーシステムの課題
古い基幹システムやパッケージソフトが長年使われ続けている場合、こうしたシステムがデータ活用の足かせになりがちです。これらのレガシーシステムからデータを取得しようとすると、特定のプロトコルや専用のツールを利用しなければいけない場合が多く、拡張性や連携性が低いのです。また、システムは何十年と保守され続ける中で肥大化し、データ構造が保たれていないこともしばしば。これを改修・刷新するためには多大なコストと時間がかかるため、現場は現状維持を優先しがちです。
4. システム部門の課題
データ利活用が進まない根源には、企業の組織、特にシステム部門が抱える構造的な課題も大きく影響します。従来、多くの日本企業においてシステム部門の役割は「運用・保守」「障害対応」といった“守り”の業務や、事業部門から依頼されたシステムを開発する“受け身”の業務が中心でした。このため、主体的に業務改革を提案したり、新しいテクノロジーを導入したりする積極的な関与は業務であまり必要とされてきませんでした。
さらに、システム構築や保守を外部企業へ委託する“ベンダー依存”が強くなると、事業部門とのコミュニケーションをとる機会も減ってしまいます。結果としてシステム部門が業務側の課題や問題点を正確に把握できず、データ活用のボトルネックとなるケースも少なくありません。
本来、企業が保有する独自のデータは、他社との競争優位性を生み出す重要な武器になり得ます。その武器を十分に把握・活用できないままでは、AIの価値を最大限に引き出すことは不可能です。特にAI技術は多くが汎用的なサービスとして普及しており、AIを導入するだけでは他社との差別化要因にはなりません。競争力を持ったAI活用を実現するためには、自社データを戦略的に使っていくことが必須です。
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林田 宏介(ハヤシダ コウスケ)
合同会社デロイト トーマツのシニアスペシャリストリード。システム開発会社、外資系総合コンサルティングフォーム、外資系ベンダー2社を経て現職。メインフレームからIoTの領域で、アプリケーション開発からR&Dでのプロダクト開発、アーキテクトまで幅広く手掛ける。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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