Excelでの管理、レガシーシステムによる分断……AIの前に考えるべきデータの問題と「4つの処方箋」
「データを使う」段階から「成果を出す」段階へ進めるために
AIを武器にするデータ環境の整備方法:現実的な4つのステップ
このように複雑に絡み合った課題を乗り越えてデータドリブン経営を実現するためには、「業務プロセス・データの統合」「非構造データの統合」「一体化された組織体制」という3つの側面から統合的にアプローチし、会社全体を巻き込んで取り組む必要があるのです。
ここからは、課題解決のための具体的なアプローチを4つのフェーズに分けて解説していきます。
1. データの分散・サイロ化へのアプローチ
部門ごとに分断されたデータを全社横断で分析できる「信頼性の高い資産」に変えることで、データの分散・サイロ化と業務プロセスの壁を解消することができます。具体的には以下のアプローチで対応しますが、詳細は連載第2回で解説予定です。
- 業務プロセスの標準化:データの発生源である業務プロセスを見直し、属人化を排除する。全社で統一されたルールを定めることで、初めて「リンゴとミカンを比べる(次元の違うものを比較する)」ような状態から脱却できる
- データ統合基盤の構築:業務プロセスに合わせたAPIをベースとしたデータ連携基盤を構築する。こうして「データ活用基盤」をつくりあげることで、全社のデータを集約し、一つの場所から実務視点で俯瞰できるようになる
- データガバナンスの確立:データの品質やセキュリティ、利用に関する全社共通のルールを策定することで、誰でも安心してデータを使える環境を整える
2. 非構造データの統合アプローチ
データの分散・サイロ化に関する課題の中でも、担当者の頭を悩ませるのがビッグデータの問題。SNSの投稿・IoTセンサーデータ・画像など、生データのままではどう活用して良いか分からない“価値が不明確なビッグデータ”を分析できる状態に整理することで、新たなビジネス価値の創出につなげることができます。具体的なアプローチは以下のとおりです。
- データレイクハウスの構築:蓄積したビッグデータを活用するため、データレイクと、データウェアハウス(DWH)を融合したデータレイクハウスを構築する。これにより、生データを保管するデータレイクの柔軟性はそのままに、データの高い信頼性と高速な分析性能を付加する
- 活用目的の明確化と分析:「何を知りたいか」という目的を定め、AIや機械学習を用いて必要なデータレイクハウスからデータを抽出する
- データ加工プロセスの自動化:生データを分析しやすい形式へ変換する処理を自動化し、分析業務に集中できる環境を構築する
3. 組織体制へのアプローチ
AI活用を成功させるためのデータ整備は、全社一体で取り組むべき一大プロジェクトです。それを牽引するシステム部門が「受け身のIT」ではデータ整備は成功しません。ビジネス部門と一体となり課題解決を主導する「攻めの戦略的パートナー」へと変革させていく必要があります。詳細は本連載の第4回で解説予定ですが、以下のフェーズを経て体制を整えていきます。
- 経営層のリーダーシップ:経営トップが「ITはコストではなく投資である」と認識し、CDO(最高データ責任者)を設置するなど、トップダウンで全社的な改革を行う体制を整える
- ビジネス部門との協働体制:ビジネス部門とシステム部門が一体となった専門チームを組成し、企画から開発・改善までを迅速に進めることで、“共創する関係”へと進化させる
- 人材のスキル変革と交流:システム部門がビジネスや新技術を学ぶ機会を設けたり、部門間の人材交流を活発化させる機会を作ったりすることで相互理解を深め、イノベーション創出を促進する
4. ニーズの把握
信頼できるデータ基盤(共通言語)と、協働できる組織体制(対話のパートナー)が整ったところで、現場に眠るニーズを掘り起こしていきます。具体的には以下の3ステップで対応します。
- データから「仮説」を立てる:業務の観点でデータの取得ができるデータ基盤を俯瞰し、「解約率が特定の顧客層で高い」「特定の製品在庫が滞留している」といったインサイトを発見する。これまでバラバラだったデータが統合されたことで、業務ユーザーが改善に向けた仮説を立てるための気づきを得られる
- 現場と対話する:立てた仮説をもってビジネス部門へ、“その数字の背景”などをヒアリング。数字だけでは見えない「競合の動き」「顧客からのクレーム」「現場の運用上の課題」といった実務上の文脈や背景情報を引き出す
- 対話から「ニーズ」を定義する:データという客観的な事実と、現場の声という主観的な文脈を組み合わせることで、漠然とした問題を具体的なビジネスニーズへと昇華させる
たとえば「売上を上げたい」という漠然とした要望は、「優良顧客の解約率を3ヵ月以内に5%改善する」といった具体的で測定可能なニーズとして再定義されます。この「データであたりをつけ、人で深掘りする」というサイクルこそが、ニーズを的確に把握するための最も効果的な流れとなるのです。
まとめ
日本企業がAI活用によって成果を創出するためには、前提条件として、全社横断のデータ統合基盤を構築することが不可欠です。そして、そのためにはシステム部門とビジネス部門が一体となって変革を牽引する新たな推進体制の構築が必要となります。
さらに、この体制をもとに専門組織の設立や継続的な教育を行うことで、データ活用を一過性の取り組みではなく企業文化として定着させることが重要です。“データを使う段階”から“データで成果を出す段階”へと活用の質を高めることで、それが企業の持続的成長につながっていくでしょう。
今回は、企業がデータ利活用を推進する上での課題と解決アプローチ、ニーズの把握について解説しました。次回は、その解決アプローチの一環として「業務データ」に関する課題とその解決策について解説していきます。
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林田 宏介(ハヤシダ コウスケ)
合同会社デロイト トーマツのシニアスペシャリストリード。システム開発会社、外資系総合コンサルティングフォーム、外資系ベンダー2社を経て現職。メインフレームからIoTの領域で、アプリケーション開発からR&Dでのプロダクト開発、アーキテクトまで幅広く手掛ける。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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