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2026年冬号(EnterpriseZine Press 2026 Winter)特集「AI時代こそ『攻めの経理・攻めのCFO』に転じる」

冨永裕子の「エンタープライズIT」アナリシス

AIエージェントの「全社展開」はなぜ失敗するのか セールスフォースが示す、成功に向けた“4つの条件”

立ちふさがる「ラストマイル」を突破するために

 「Agentforce」発表から約2年。米セールスフォース(Salesforce)は、企業への導入支援の過程で多くのことを学んでいる。2026年2月3日に行われたオンラインブリーフィングで同社は、スモールスタートでの試用から大規模展開するための必須要件を「ラストマイル」と表現し、注力すべき4つの柱を紹介した。

「Agentic Enterprise」実現に向けた、ラストマイル

 セールスフォースからAgentforceが提供され、顧客への導入が進んでいる。ただし、すべてのプロジェクトが本番環境への移行に成功したわけではない。パイロットプロジェクトから進展がないケースも見られる。コンシューマー向けとビジネス向けでは、ユースケースがまったく異なるからだ。個人でAIツールを利用すると「LLMはなんでもできる」と期待してしまいがちだが、ビジネス利用は一筋縄ではいかない。LLMの能力を引き出しながらも、安全かつ効果的に成果を得るためには多くの努力が必要だ。同社 ムラリダール・クリシュナプラサド(Muralidhar Krishnaprasad)氏は、セールスフォースが顧客導入をサポートする過程で、多くのことを学んでいると主張する。

 クリシュナプラサド氏は、モデルの推論能力とビジネス成果の間にあるギャップを「ラストマイル」と呼び、セールスフォースでは“4つの視点”からギャップを埋めるための取り組みを進めているとした。その4つとは、「コンテキスト」「コントロール」「可観測性」「オーケストレーション」である。適切なコンテキストやコントロール、可観測性を確保し、オープンなエージェントエコシステムと組み合わせることで、企業全体でのオーケストレーションを目指す。この4つの要素は、「Agentforce 360 Platform」の全体を支える理念でもある。

AIエージェント導入の「ラストマイル」
AIエージェント導入の「ラストマイル」

 通常、Agentforceの導入は比較的シンプルなユースケースから始まり、複雑なものへと進化する。セールスフォースのマドゥハブ・タタイ(Madhav Thattai)氏は、「(ラストマイルは)顧客がAIから真の価値を享受することを阻害する要因と考えている」と述べ、4つの視点について詳細を解説した。

 まず、1つ目のコンテキストによるギャップは、AIエージェントが必要とするデータが不足していることに起因する。顧客が何をしたいかを理解するには、人間同様にAIエージェントが顧客に関するあらゆるデータにアクセスできなければならない。

 たとえば、AIエージェントに商品のレコメンドをしてもらうとする。最初に考えるべきことは、顧客の購入履歴にアクセスできるようにすることだ。しかし、これだけでは十分ではない。レコメンド商品のカテゴリーは適切でも、価格帯が適切でない場合には反発を買ってしまう。アクセスするべきデータの種類を充実させることに加え、データの意味や由来、アクセスのタイミングを把握できることも重要であり、これらがAIエージェントのスキル強化につながる。

 家庭用品を中心に扱う米ウィリアムズ・ソノマ(Williams Sonoma)では、顧客の買い物をサポートするためのAIエージェントを構築。同社の事例で参考になるのが、AIエージェントを強化するために商品マニュアルを読み込ませ、回答内容を非構造化データで充実させたことだ。コンテキストは、AIエージェントが適切な顧客体験を提供するためだけでなく、パーソナライゼーションの水準を高めることにも役立つ。タタイ氏は、「コンテキストはデータやコンテンツ以上のもの」と話す。

次のページ
セールスフォースが示す、LLMを補完する「ハイブリッド推論」とは

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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)

 IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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