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駆け込みSAP移行が生む無駄とリスク──SNP Japanが問う「使うERP」への転換

SNP Japan マネージングディレクター 細谷修平氏インタビュー

 ECC保守終了の期限が迫る中、日本企業のS/4HANA移行は“とにかく移す”フェーズに突入している。移行需要の急増がSIer側の人材不足と費用高騰を招き、カスタムコードを抱えたまま何も変えない移行が量産されているのが実態だ。だが移行の完了と、S/4HANAが本来持つ価値の実現はまったく別の問題だと訴えるのが、SAPデータ移行に30年以上特化してきたSNP Japanのマネージングディレクター 細谷修平氏だ。シェルコンバージョンによる移行手法の核心から、クリーンコア戦略の実効性、AI-ReadyなERP基盤の作り方まで、詳しく聞いた。

この記事のポイント

  • ブラウン×グリーンを両立するシェルコンバージョンの使い方
  • 大型連休不要のGo Liveを実現するダウンタイム短縮手法
  • 「AI-Ready」なS/4HANAを実現する過去データ活用
  • 大規模SAP移行で障害を出さないためのツール活用

 2027年のSAP ECC(ERP 6.0)保守終了まで2年を切った。S/4HANA移行の波は日本でも本格化しているが、「とにかく移す」という姿勢への懸念が専門家の間で広がっている。カスタムコードを抱えたまま何も変えない移行が量産され、S/4HANAが本来持つAI活用の基盤としての価値を取りこぼしているというのが実態だ。

 1994年にドイツで創業し、30年以上にわたりSAPデータ移行に特化してきたSNPグループの日本法人、SNP Japanでマネージングディレクターを務める細谷修平氏はこう指摘する。

 「S/4HANAへの移行は、“作るERP”から“使うERP”への発想転換の機会でなければならない。それがないまま駆け込みでS/4化しても、得られるはずの価値の多くを取りこぼすことになる」

 その「価値」とは、HANAというインメモリデータベースを基盤に、データをAI活用に直結させる能力のことだという。

SNP Japan マネージングディレクター 細谷修平氏

「ブラウン」か「グリーン」か、という二択の限界

[画像クリックで拡大]

 S/4HANA移行のアプローチとして広く知られているのが、ブラウンフィールドグリーンフィールドだ。ブラウンフィールドは既存ECC環境のプロセス・設定・データをそのまま移行するテクニカルコンバージョン。グリーンフィールドは業務プロセスを一から再設計してS/4HANAを新規構築するアプローチで、導入から15年以上が経過した環境を刷新したい企業が選ぶ。

 しかしこの2択は、実際の移行要件の多様さを捉えきれていない、と細谷氏は見る。

 「ブラウンフィールドでは既存のカスタムコードやアドオンを抱えたまま移行するため、変革のチャンスを移行後に先送りするしかない。一方、グリーンフィールドでは再構築に時間とコストがかかることに加え、過去のトランザクションデータを移行できないのが原則。移行後に参照できるのはマスターデータや残高などのオープンアイテムに限られ、15年分の業務データは旧環境に塩漬けになる」

 「グリーンフィールドで再構築したいが必要な過去データは持っていきたい」「ブラウンフィールドで移行したいが週末2日間でダウンタイムを終わらせたい」「複数拠点のSAPを統合しつつ部分的にプロセスも刷新したい」──いずれも、単純な二択では対応できない要件だという。

設定とデータを分ける「シェルコンバージョン」

[画像クリックで拡大]

 SNPのアプローチの特徴は、移行プロジェクトの最初期に「シェル」を構築することにある。家の間取り(設定・プロセス)だけを先に新居に移し、家具(データ)は後から選んで運ぶようなイメージだ。具体的には、現行ECCからトランザクションデータを含まない設定・プロセスの塊だけを抽出し、SAPの標準機能でS/4HANAへコンバージョンする。自社の業務要件が反映されたS/4HANAの「器」が、わずか数日で完成する。

 「シェルに対して、追加で変更ができるのがポイントだ。ブラウンフィールドなら移行後にしか変えられなかったプロセスや組織設定、マスター体系を、移行前に変更できる。たとえば15年分のデータのうち直近5年分だけ切って持っていく、受注プロセスをS/4HANAのネイティブ機能に切り替える、複数インスタンスを統合する際のマスターコードを読み替えて統一するといった、グリーンフィールド的な変革を、ブラウンフィールド的な手法の上に重ねることができる」

 データの書き込みはSNPの「Kyanoプラットフォーム」という自動化エンジンが担い、ソースからターゲットへテーブル単位で直接書き込む。「SNPはSAPのテーブルを直接操作する許可を受けている企業の1社であり、パートナー企業にツールを開放している。だからこそ、日本の主要SIerがKyanoプラットフォームを使った独自の移行サービスを展開できる」と細谷氏は言う。「アクセンチュア、アビームコンサルティング、富士通、IBM、日立システムズ、電通総研、NTTデータグローバルソリューションズ、TIS、BeeXなど国内の主要SIerが採用しているのはその結果だ」と続ける。

次のページ
「週末2日間でGo Live」を可能にするダウンタイム設計

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この記事の著者

京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)

ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...

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