駆け込みSAP移行が生む無駄とリスク──SNP Japanが問う「使うERP」への転換
SNP Japan マネージングディレクター 細谷修平氏インタビュー
「週末2日間でGo Live」を可能にするダウンタイム設計
従来のブラウンフィールド移行では、システム停止(ダウンタイム)中に移行先のS/4HANA環境を設定する。RISE with SAPへの移行では前後の作業を含めると約1週間の停止が必要になることもあり、年末年始やゴールデンウィークがGo Liveの機会として選ばれてきた。
シェルコンバージョンではプロジェクト途中でターゲット環境の設定がすでに完成しているため、ダウンタイム中に必要な作業はデータ移行だけになり、土日の2日間でGo Live(本番環境移行)を完了するプロジェクトも現実的になる。「お客様のIT部門もSIerも、正月やお盆を潰して作業する必要がなくなる」と細谷氏は語る。
大型連休前提の計画では年間4〜5回しかGo Liveの機会がないが、週末移行なら52回の機会があり、遅延が生じても影響を数週間単位に抑えられる。コスト面では通常のブラウンフィールドと比べて約1割程度高くなるケースもあるが、ダウンタイム最小化の柔軟性とツールによる品質担保のトータル効果で差し引きできる、と細谷氏は整理する。
シェルコンバージョンがもたらす価値「プロジェクト期間の短縮」
S/4HANA移行を検討する企業が直面するもう一つの課題が、「現行のECCがS/4 Readyな状態になっているか」という問題だ。移行に先立って、新総勘定元帳(New GL)変換、Unicode変換、ビジネスパートナーマスタ変換といった準備プロジェクトを順に実施しなければならないのが通例で、これだけで相当な期間を要する。
SNP Kyanoを活用するとこれらのデータ変換を移行プロジェクトと一度に完了させられる。「事前プロジェクトを含めて3年6ヵ月の移行スケジュールを計画されていたお客様に、Kyanoを適用することで半分以下の期間でS/4マイグレーションを完了させる提案を行った」と細谷氏は述べる。期間の短縮は総コストの抑制にも直結しており、Kyanoが評価されるポイントの一つになっているという。
「駆け込みS/4化」が取りこぼすもの
人材不足とコスト高騰を背景に、「カスタムコードは変えない、とにかくS/4HANAという器に移す」方針のプロジェクトが量産されている。移行自体は完了しても、S/4HANAが本来持つ価値を引き出せるかどうかは別の話だ。
従来のERPがトランザクションの記録を主眼としていたのに対し、S/4HANAはHANAというインメモリの巨大データベースを基盤に持ち、実行系と分析系の区別を実質的に無効にしつつある。蓄積されたデータをAIによる需給プロセスの最適化や傾向分析に使える環境が整うことは、「S/4HANA化されていること自体がAI-Readyな状態に近い」と細谷氏はみる。
ここで問題になるのが、グリーンフィールドで再構築しながら過去データを移行しなかった場合だ。残高とマスターだけが入った"スカスカ"のS/4HANAでは、AIを活用するためのデータ基盤が揃わない。
「グリーンフィールドで再構築しても過去2ヵ月分のデータしかないシステムでは、インテリジェントエンタープライズとはいえない。企業にとってのアセットであるデータを持っていかないで、どうするのかと。S/4HANAの価値を最大化するには、過去データの移行が不可欠だ」
移行を「器を変える作業」と捉えている限り、この問いは浮かびにくい。S/4HANA化を「AIが使えるデータ基盤を整備する行為」として位置づけ直すことが、移行設計の起点になる。シェルコンバージョンによって過去データを選択的に持ち込める手法が存在する以上、「グリーンフィールドだからデータは諦める」という前提そのものを疑う余地がある。
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京部康男 (編集部)(キョウベヤスオ)
ライター兼エディター。翔泳社EnterpriseZineには業務委託として関わる。翔泳社在籍時には各種イベントの立ち上げやメディア、書籍、イベントに関わってきた。現在はフリーランスとして、エンタープライズIT、行政情報IT関連、企業のWeb記事作成、企業出版支援などを行う。Mail : k...
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