2025年11月に完了したセールスフォースによるInformatica統合の真の狙いは、AIエージェントが正確に動作するための「コンテキスト」形成にある。Data 360、MuleSoft、Informaticaの三位一体で、分散するシステムから信頼できる唯一の情報源を作り出す。セールスフォースが提示した「System of Context」とは何か。2026年3月5日に行われた説明会の内容から、AIエージェント戦略との関連を探る。
Agentic Enterpriseにおける「System of Context」
セールスフォースでは、人とAIエージェントが共に働く将来ビジョンを「Agentic Enterprise」と表現している。このAgentic Enterpriseを実現する上で、考えるべきことの1つに「LLMにどこまで期待するか」がある。セールスフォースはLLMを提供する会社ではない。LLM以外で必要な要素を下から順に「System of Context」「System of Work」「System of Agency」「System of Engagement」の4つのレイヤーで整理した。
LLMは4つのレイヤーのさらに下に位置する。三戸篤氏は「このアーキテクチャーで、信頼できるAIエージェントが稼働するAgentic Enterpriseを実現できると考えている。ただし、お客様に4レイヤー全てをSalesforce製品に入れ替えることを強いるわけではない。各レイヤーはオープンアーキテクチャーで構築されているため、既存の資産をSalesforceのシステム、LLMと合わせて独自のアーキテクチャーを構築することができる」とした。
4レイヤーのうち、一番下の「System of Context」の機能の一部を提供するのが、2025年11月に買収したInformatica製品である。ここでのコンテキスト(文脈)とは、AIエージェントが正確な回答出力やアクション実行に必要な「背景情報」を指す。人間同士の会話も、コンテキストを共有することで成り立つ。例えば、MDMという略語を聞いて、「Master Data Management」を連想する人もいれば、「Mobile Device Management」を連想する人もいる。どちらも正しい。しかし、会話の中の前後関係から判断すると、正しい意味は1つしかない。つまり、指示を与えるだけでなく、信頼できるコンテキストを伴ったデータにアクセスできなくては、AIエージェントは正しく動作できない。
小澤泰斗氏は、「コンテキストをAIエージェントに理解させるのは、想像するほど簡単ではない」と指摘する。というのも、コンテキスト情報を付加する以前に、企業内のデータマネジメントに問題を抱えているケースが非常に多いためだ。長年にわたり、運用してきたシステムの種類が非常に多く、データのサイロ化の問題がある。特に、大企業ではグループ会社が多く、会計システムだけでも20種類以上を運用している場合がある。他のシステムも含めると非常に複雑なシステム環境である。さらには、構造化データだけでなく、非構造化データも利用できるようにしなくてはならない。このようなデータマネジメントはInformaticaの得意領域である。組織の統合を経て、Data 360、MuleSoftを加えた三位一体で、分散する様々なシステムの関係性を維持しながらコンテキストマネジメントを行うことが可能になった。
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冨永 裕子(トミナガ ユウコ)
IT調査会社(ITR、IDC Japan)で、エンタープライズIT分野におけるソフトウエアの調査プロジェクトを担当する。その傍らITコンサルタントとして、ユーザー企業を対象としたITマネジメント領域を中心としたコンサルティングプロジェクトを経験。現在はフリーランスのITアナリスト兼ITコンサルタン...
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