F5ネットワークスジャパンは2026年7月9日、都内で年次ツアーイベント「AppWorld Tokyo 2026」を開催。それに合わせ、カントリーマネージャーの木村正範氏と、本社から来日したCPO(最高製品責任者)のクナル・アナンド氏より、複数の新製品や日本市場における事業戦略が発表された。
【左】F5 Inc. Chief Product Officer クナル・アナンド(Kunal Anand)氏/
【右】F5ネットワークスジャパン合同会社 カントリーマネージャー 木村正範氏
F5は、今年で創業30周年を迎える。FY25は、オンプレミス回帰や主権確保(ソブリン)の潮流を背景とした「ハイブリッドクラウド」のニーズと、アプリケーションやAIモデル、データなどを接続するポイントの「AIセキュリティ」のニーズが牽引し、好調な業績を収めたようだ。
木村氏からは、日本市場における主要課題が共有された。1つ目はフロンティアAIへの対応──これは日本に限った話ではないだろうが、Mythosのようなフロンティアモデルによってもたらされる脆弱性・ゼロデイ攻撃に対し、今まで以上に高頻度で発生するパッチの管理をどうするか。また、そもそも根本的な防御のアプローチをどうキャッチアップさせていくかという問題だ。
2つ目はセキュリティ人材とスキルの不足である。特に、AIセキュリティの知見を持つエンジニアの不足が深刻とのことだ。これに対する施策として、F5は「F5 Academy」という無償トレーニングプログラムを2026年4月より日本でも開始した。既に約600名の受講登録があるという。

そして3つ目が、シャドーAIの可視化と管理である。シャドーAIの問題は既に皆さんもご存じだろうが、この問題に対してハードウェア/ソフトウェア両面での最新化によるセキュリティ担保が進んでおり、その成功事例として、同社が4月に発表したナレッジコミュニケーションとの協業が挙げられた。この協業では、「F5 AI Guardrails」を活用してAIガバナンス/AIセキュリティの基盤を構築し、導入企業の環境や要件に応じた柔軟なAIセキュリティ環境の確保、レッドチーミング、本格導入を見据えた運用設計などの検証が行われた。
こうした課題に対し、F5は昨年発表した「ADSP(F5 Application Delivery and Security Platform)」を中心に、製品ポートフォリオの拡充と強化で応えていく構えだ。

ADSPとは、同社が提供するトラフィック配信機能とサイバーセキュリティ機能を単一のプラットフォームに統合し、そこにエージェンティック運用(AIOps)を実装した製品である。AIによるトラフィックの急増に対応するためのネットワーク、AIガバナンス/AIセキュリティのための機能をすべて単一コンソールで管理でき、シンプルかつガバナンスの効いた運用を提供する。
本国CPOのアナンド氏からは、様々な新製品やロードマップについて共有された。まず同氏は、①ハイブリッドクラウド/マルチクラウド環境の普及、②AIの普及、③ポストMythos時代の脅威という3つの課題に対し、以下の方針で対応を図っていくという。
- 最新のAIモデルを活用してコードのセキュリティを強化したバージョンを毎月リリースする
- 各製品の更新サイクルを加速、運用負荷も軽減する
- AI駆動のランタイムセキュリティを提供する
続いて、各製品のアップデートと新製品の提供開始予定が発表された。まずは、同社が以前から提供するロードバランサー(負荷分散装置)およびADC(アプリケーション・デリバリ・コントローラ)製品である「BIG-IP」の進化について。2026年の初めにリリースされた最新ver 21.1では、新たにAIとS3プロトコルのサポートが追加され、スループットが約2倍に向上した。加えて、今後リリース予定のバージョンでは、AIを活用したアプリケーションファイアウォールが実装されるとのことだ。

次に、2026年8月よりアーリーアクセスが開始される「F5 AI Gateway」──これは、AIモデルのルーティング、MCPゲートウェイ(AIエージェントやAIツールへのアクセス制御)、AIガードレールの3つの機能を1つのパッケージにまとめて提供するものだという。日本の顧客からも既に多くの期待が寄せられているとアナンド氏は語る。

そして、先に述べたBIG-IP上で、AIアプリケーションとデータのやり取りを可視化し、データ侵害や持ち出しを防ぐDLP(データ損失防止)機能が搭載されたことにも触れられた。

アナンド氏は、昨今のIT業界全体で起こっている製品統合、プラットフォーム化の流れを踏まえ、「APIディスカバリーとセキュリティの間に大きな隔たりが起こっている」と指摘する。モダナイズされた最新アプリケーションはAPI経由で動作するものの、その可視性が追いついていないという問題だ。自社の環境にはどんなAPIが存在するのか、誰が利用しているのか、どんなデータが公開されているのか……。多くの組織は、インシデントが発生して初めてAPIの存在に気付くというが、それでは手遅れだ。そこで、BIG-IPを「リアルタイムAPIセンサー」として活用するというのが、同社が出した答えである。厳格なセキュリティやソブリンの要件を持つ産業分野に向けては、オンプレミス環境向けのBIG-IP上でAPIの発見と保護を担うソリューションを提供するとしている。

AIによって強化されたWAFも紹介された。従来のWAFは、既知の脅威に対しては効果を発揮するものの、AIを用いた未知の脅威には対応できない。そこでF5は、トラフィックの流れに沿った従来のWAFの層に加え、GPUを必要としないニューラルネットワーク層を構築した。エッジで脅威を捌き、リアルタイムで脅威の判断・評価を行う。既にいくつものゼロデイ攻撃を防いでおり、誤検知率は1%、標準機能だけでも98%の検知率を誇るという。

続いてAIセキュリティ。この分野では、AIモデルの脆弱性を発見する「F5 AI Red Team」でのテスト結果を自動的にガードレール(F5 AI Guardrails)に変換して1分以内にパッチを当てるという「F5 AI Remediate」が提供される予定だ。レッドチーミングから実際のガードレール反映対応に至るまでのプロセスを自動化し、橋渡し役を担うソリューションだ。

「F5 AI Guardrails」の日本語対応版も発表された。加えて、2026年6月にAIガバナンス技術のスタートアップSurePath AIを買収したことでAIのディスカバリー機能も実装し、これによりガバナンス、ディスカバリー、ガードレール、テストのすべてを統合した「F5 AI Security Platform」を実現するまでに至った。

運用面(XOps)の改善についても新たな取り組みが既に動いている。先述のADSP上では、データセンターのデプロイメント状況を可視化する「F5 Insight」の一般提供が開始されている。加えて、アップグレードなどの作業時間を削減する「F5 Fleet Management」も間もなく提供が開始される。


最後に、AIファクトリーの取り組みについて。NVIDIAが中心となって進める、電力やデータをトークンへと変換する仕組みの構築にF5も協力しており、DPU(データ処理ユニット)を活用することで、GPUを変更することなく約40%のトークン生成効率向上を実現したとのことだ。
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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)関連を中心に、国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材しているほか、DX推進や、企業財務・IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。武蔵大学 経済学部 経済学科 卒業。
※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です
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