チェンジホールディングス(以下、チェンジHD)は2026年9月16日、AIの進化や社会実装を見据えた事業戦略を発表した。トラストバンクやイー・ガーディアンなどを擁し、これまで様々な業種・分野向けにDX支援を手掛けてきた同社だが、社長の福留大士氏は今回、「DXからAI(AX)へ」の進化・転換を掲げた。
株式会社チェンジホールディングス 代表取締役兼執行役員社長
福留大士氏
AIの力で変革すべきところは変革する。一方で、伝統・歴史・習慣など、守るべきところは守っていく。この両輪こそが、チェンジHDが重んじるビジネスの価値観である。福留氏は、同社の事業戦略を説明する前に、日本におけるAI活用の実態と格差について言及した。
日本は、個人レベルで見れば世界でもトップクラスにAIユーザーが多い地域で、既に生活の中にAIが入り込んでいる。しかし「企業」となると、途端に活用の進展が鈍くなるという。財務的なインパクトを出すレベルでAIを活用できている企業は10%未満とまだまだ少ないうえ、多くの人が「AIをもっと活用したい」とは思いつつも、十分に業務で活用できている人はわずか16.9%というのが実態だ。

普及拡大のボトルネックとしては、やはり情報漏洩やハルシネーション、バイアス、AIとの共存への不安などが挙げられた。これを踏まえ、福留氏は「AI利活用が進まない原因は個人ではなく、組織や職場環境にある」と指摘する。
加えて、格差は業種間・地域間でも広がっているとのことだ。情報通信業ではAI“未利用者”がわずか12.5%となっている一方で、運輸や郵便、生活関連サービス、娯楽、卸・小売、医療などといった業種では、4割超の人々が未だAIを利用したことがない。地域で見ると、東京23区、地方都市、地方(政令指定都市を除く地域)での格差も既にかなりの開きがある。このままでは都市部への集中が進む一方だ。このギャップを埋め、いかにすべての地域がAIの力を恩恵として享受できるようにするかが、チェンジHDの勝負どころだと福留氏は述べた。

地方へのプレゼンスを活かし、AIの社会実装でリードする
地方自治体とのつながり、そしてセキュリティやロボティクスなど専門性に特化した数々のグループ会社の知見を結集した支援がチェンジHDの強みだ。ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営し、「LoGoチャット」など自治体向けDXソリューションも手掛けるトラストバンク。配膳・清掃・警備などで普及しているサービスロボット展開の先駆けとなったDFA Robotics。さらには2023年に子会社化したサイバーセキュリティおよびBPOのイー・ガーディアンなど……。AIを活用した直近の取り組みとしては以下が紹介された(一部抜粋)。
- 自社AI推進(イー・ガーディアン):社内でBPO現場のスーパーバイザー130名にClaude Codeを導入。約200個の業務改善ツールを自ら開発・活用する現場主導の仕組みを構築
- 秋田県でのクマ対策(東光コンピュータ・サービス):クマ(熊)被害が深刻な秋田県にて、ドローンと画像解析AIを活用したクマ監視事業を受託。平時は森林データを収集してカーボンクレジットに変換し、朝・夕のクマが出没しやすい時間帯には、集中探索と追い払いを行う
- 防衛DX(ジーグラビティ):陸上自衛隊約14万人向けに、幕僚長から現場隊員までがAIを活用できる環境を構築
- 医療現場改革(ビーキャップ):病院における看護師の日々の行動を解析したところ、業務時間の約30%が移動に費やされていると判明。検体や書類の搬送などといった代替可能な移動を可視化し、ロボットへ置き換えていく

レガシー産業の技術継承・脱属人化へ、アウタークを買収
そして今回、新たにアウターク(Outarc)の買収・グループ化が発表された。アウタークは、製造業などのレガシー産業向けに、熟練者のノウハウや暗黙知をAIで構造化し、技術伝承や脱属人化などの支援を手掛けるスタートアップだ。同社の創業者である西山瑞生氏は引き続き代表取締役社長として留任するほか、新たにチェンジグループ全体のCAIO(最高AI責任者)も兼務するという。アウタークというAIネイティブ組織を率いてきたほか、AIがチェンジHDのビジネスや顧客を大きく変えることに期待を寄せ、旧態の常識や認知バイアスにとらわれずアクションを起こせる同氏が抜擢された。
株式会社アウターク 代表取締役社長/チェンジグループ CAIO(Chief AI Officer)
西山瑞生氏
既成のパッケージを得るのではなく、ゼロから課題を洗い出し、ベテランのノウハウ・経験・目利きを誰もが利用できる資産に変えることが、アウタークのミッションだと西山氏。同社は、以下3層に広がるモジュール群を組み合わせて提供することで、データの整備から開発・運用までを一気通貫で支援する。
- AI基盤構築:構造化/非構造化データを一元化し、AIが読み込めるようにする。全モジュールの土台となるオントロジー層
- 専門AIケイパビリティ:業務特化の独自開発AIモジュール群を組み合わせるレイヤー。AI基盤の上で「判断」「予測」「対話」を担う
- 運用・改善ループ:導入して終わりにせず、業務に定着化して溶け込み、AIが自律的に暗黙知を抽出して自己改善を行い、賢くなりつづける仕組み

直近、製造業からは特に以下3点のニーズで相談を受けることが多いという。
- 社内データのAIフレンドリー化:社内に眠るデータを構造化し、AIがデータを活用できる環境を整える
- 暗黙知の形式化:ベテランしか分からないノウハウや勘を誰でも使える形へ落とし込む
- 既存基板を活用した業務適合開発:Microsoft CopilotやClaudeなどのAIを日常業務に定着させる。個人の最適化だけでなく、業務全体をAI前提に再設計する

大企業からの継続発注も安定しているようだ。西山氏は、AI駆動開発による「高速・低コスト・手戻りゼロ」を強みに、さらなる事業の拡大を目指すとした。

自治体でAIエージェントの実証実験も進行中
再び福留氏が登壇し、地方自治体で進んでいるAIエージェントの実証プロジェクトについて説明した。人手不足が深刻な中小規模の自治体にとっては、AIエージェントが大きな救いの手となるかもしれない。しかし、その前にはデジタル人材不足、予算不足、そしてセキュリティへの不安といった壁が立ちはだかる。
この不安を解消すべく、チェンジHDはまず調査、要約、照合、文書作成などといった個人情報や住民情報を扱わない業務に限定してAIエージェントを試用していく支援のプロセスをとっている。限定的な領域で効果を測定しながら、汎用的な型を構築していくという順番だ。職員の時間を作り出し、住民対応や政策構想など「人にしかできない業務」へ時間を再配分することが目的だという。
こうした実証が、既に栃木県那須塩原市と奈良県三宅町で進められているとのことだ。

イー・ガーディアンは「AI×監視」でリスクの急拡大に商機を見出す
イー・ガーディアンは元々、SNS投稿や広告審査、脆弱性診断などといった“監視”領域に特化したBPO企業だ。このノウハウを活かし、AIの普及や、SNSをはじめとするインターネット空間での社会問題の深刻化といった「リスクの急拡大」に対し売り込んでいく狙いだ。
AIの拡大により、BPOのニーズはどんどん縮小していくのではないか。そんな懸念や見通しがある中で、イー・ガーディアンは「AIと人の最適な分業」を模索してきた。2026年の初めにはAI戦略統括本部を新設し、AIエンジニアを現場に配置して内製化・課題解決を進めてきたという。「AIと人がコラボレーションすることで最高のアウトプットが出せると証明する」と福留氏は意気込む。
現在、特に増えているのがIPの悪用を監視するニーズだという。ポケモンやサンリオのような日本が誇る世界的コンテンツ・IPのネット上での侵害被害額は、グローバルで10兆円規模にのぼる。生成AIによる無断学習や自動生成被害も深刻だ。これに対し、イー・ガーディアンは自動監視と人の目を掛け合わせ、日本の重要な外貨獲得資源を守っていくとした。

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名須川 楓太(編集部)(ナスカワ フウタ)
サイバーセキュリティとAI(人工知能)の分野を中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず国内外の最新技術やルールメイキング動向を取材。そのほか、DX推進、IRなどのコーポレート領域でも情報を発信。※取材のご案内等は個人のメールアドレスか、EnterpriseZine編集部の問い合わせ窓口にお願いいた...
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