クラウドでも可用性、セキュリティ、パフォーマンスには妥協しない
2010年12月8日、日立製作所はヴイエムウェアとの共催で「”実践仮想化”、Harmonious Cloud活用に向けて」と題してセミナーを開催し、企業がクラウドコンピューティングを活用するためのポイントについて紹介を行った。
株式会社 日立製作所 情報・通信システム社 プラットフォームソリューション事業部 部長の神林雅史氏は、「ITシステムをより集約し共通化することで、新たな価値が生まれる」と言う。神林氏は、企業のクラウドコンピューティングへの期待は2つあると説明する。1つがクラウド上のアプリケーションの利用であり、もう1つがクラウド化されたプラットフォームの利用である。アプリケーションの利用環境としてはSaaSがあり、プラットフォームの利用環境としてはPaaSやプライベートクラウドがある。どれを自社に適用すれば効果が出るのか、企業はいまその選択に悩んでいるという。
このような企業のクラウドコンピューティング活用における悩みに応えるため、日立グループ会社一体となって取り組んでいるのが、「Harmonious Cloud」であり、さらに「クラウドであっても可用性、セキュリティ、パフォーマンスに妥協しない。」と神林氏は語る。
日立がクラウドコンピューティングの強化を始めてすでに1年以上が経過し、多くの事例も出ているとのこと。それら事例から得られたノウハウ、経験から、クラウド化を進めるには3つのアプローチがあることが分かった。
1つ目は、企業の業務のうち定型でコアでないものや新規サービスをパブリッククラウド化するアプローチだ。2つ目が、自社ITインフラを最適化しプライベートクラウドの構築を目指すもの。そして3つ目は、企業にとってのコア部分などで、クラウド化せずに既存システムをそのまま残すという選択肢だ。
最終的には、これらアプローチのどれかを選択するのではなく、適材適所で3つを組み合わせたハイブリッド型のクラウド環境を目指すことになる、と神林氏は指摘する。
具体的にどのシステムをパブリッククラウド化し、どの部分をプライベートクラウド化すればいいのか。見極めるには、既存ITシステムを仕分けすることが重要だ。一般的には定型的でコアではない分野はパブリッククラウドに、非定型でデータを社外に出したくなければプライベートクラウドに持って行くことになる。
日立自身が活用するクラウド環境を顧客にも提供
実際にクラウド化を進めるには、3つのステップがある。
最初のステップが、ITシステムを仕分けし外部サービスを適用できるものをパブリッククラウド化する。その次のステップが、プライベートクラウドによるITリソースの最適化だ。この際には、VMwareなどのサーバー仮想化技術を活用する。そして3つ目が、既存システムとクラウド環境との統合運用を行うステップだ。
日立では、実際にこのステップに沿って社内のクラウド化を進めている。「日立がクラウドコンピューティングに真っ先に取り組み、そこで得たノウハウをクラウドサービスとして顧客に提供する」と神林氏。現在、Webベースのクラウドシステムでメール、スケジュール管理、電子会議室、ファイル共有の仕組みを、日立グループ約20万人のユーザーで利用している。日立グループ内でこの仕組みが十分に活用できることを実証し、その上で「情報共有基盤提供サービス」として顧客にも提供しているとのこと。クラウド化でコストや運用管理の手間を削減するだけでなく、情報がクラウド上に一元的に管理され情報漏洩リスクの低減にも寄与する仕組みだと神林氏は指摘する。
また、パブリッククラウドのサービスは、小さく始めて、段階的に拡大することも容易だ。「新しいビジネスを始める際に、パブリッククラウドなら素早く始められる。新規ビジネスの立ち上げではITに大きな投資がしにくいが、パブリッククラウドなら小さな投資ですぐに利用できる」とのこと。ビジネスが軌道に乗り拡大しても、クラウドサービスならすぐにリソースを追加し柔軟性に対応できるのも大きなメリットであることを実例を交えて紹介した。
プライベートクラウドはIT集約化だけでなくガバナンス強化にも有効
「多くの企業において、VMwareなどの仮想化技術の利用は始まっているが、プライベートクラウド化にまでは至っていない」と神林氏。仮想化の利用でサーバーの集約から、一歩進めたプライベートクラウド化に至るには、ITシステムを標準モデル化し再利用できるようにし、より集約化を進める必要がある。
サーバ利用環境も日立社内でプライベートウラウドを構築してすでに利用を開始している。そこで得られるさまざまなノウハウを、顧客のプライベートクラウドにも適用させるのだ。日立のプライベートクラウドは、さまざまな業務アプリケーションを稼動させるサーバ環境を部門ごとに持つのではなく、情報システム部門がシェアードサービスとして仮想サーバ環境を日立グループ内に提供する形をとっている。
プライベートクラウドの運用上重要となるのが、システムへの入り口となる認証部分だ。シングルサインオンの仕組みと人事データベースと連携させることで、組織変更などと連動して自動で権限の変更が可能となる。こういったことまで実現すると、プライベートクラウド化した環境の運用管理の手間は、大きく削減される。
また、日立ではユーザーの環境はシンクライアント化している。これもプライベートクラウドが効果を発揮する分野とのこと。ユーザー環境はサーバー側に集約され、集中的に管理が可能だ。これにより、「グループ会社を含めITガバナンスが効くようになった」と、管理負荷の軽減だけでなく、情報漏洩対策やガバナンス確保もプライベートクラウドで実現できると神林氏は説明する。
日立では、クラウドの運用ノウハウをテンプレート化しており、これを活用することで迅速なプライベートクラウド環境の活用が可能になる。プライベートクラウドの構築に必要な運用管理ソフトウェアのJP1、仮想化機構のVirtage、VMware、ブレードサーバー、ネットワークスイッチ、ストレージなどに導入サービス、運用保守支援サービスを組み合わせパッケージ化して「Harmonious Cloud Packaged Platform」として販売している。「これを利用すれば、最短3週間でプライベートクラウド環境を構築できる」と神林氏は強調した。