2013年も、早くも1ヶ月が過ぎた。12月末で決算を迎えた外資系IT企業の多くが、業績の結果を発表している。どの企業も概ね好調なようで、発表文の中には「過去最高」なんて単語も見え隠れする。海外では、リーマンショックの落ち込みから、すでにだいぶ快復してきたということなのだろう。日本もアベノミクスで、株価だけは急激な上昇傾向にある。東日本大震災以降の落ち込みを、これでやっと回復するきっかけを掴めるのだろうか。株価は上がっているけれど、まだまだIT業界に景気のいい話は聞こえてこない。景気のよさを実感するまでには、まだ少し時間がかかりそうだ。
SAPはレガシーから革新的なソフトウェアサービスベンダーに変革しつつある
さて、好調な海外勢の中でもかなり調子がよさそうなのがSAPだ。先日発表された2012年度決算のリリースを見ると、ワールドワイドで前年同期比で14%の売上増となっている。数年前には、SAPが得意とするオンプレミスのERP関連のアプリケーションソフトウェアについては、市場では需要も一巡し一息ついた感があったように思っていた。ところが、そのあたりのビジネスは堅調とのことで、落ち込む状況にはないようだ。
既存ビジネスが堅調なところに、SAPとしての新たなチャレンジ分野である、インメモリーデータベースのSAP HANA、クラウドサービス、モバイルなどの分野が軒並み目標を達成するか、それを上回る結果を残している。となれば、「過去最高の売上」でも不思議ではない。SAP HANAについては、昨年くらいからとにかく強気な発言が相次いでいた。結果的には「SAP HANAの第4四半期の業績は目覚ましいもので、ソフトウェア売上が約2億ユーロに到達し、通年については約4億ユーロの売上となりました」とあるように、強気の発言は嘘ではなく順調に売上を伸ばしているようだ。
SAPにとってHANAのビジネスは、市場のホワイトスペースをとりにいくものだ。どんなことをやっても、いまは結果がマイナスになることはないだろう。現状はインメモリデータベースというものに対し、先進的なユーザーが関心を集めているわけであり、それが売上増に貢献しているはず。この流れを維持し続けられるかどうかが、今後のHANAのビジネス成長率に影響する。成長を維持していくには当初重視してきたであろう製品の認知度向上だけでなく、今後は製品に対するユーザーの深いレベルでの理解度向上も必要になってくるはずだ。つまり、エンジニアレベルで、HANAとはいったいどんなデータベースなのか、利点は何で弱点はどこにあるのか。使いこなすためにはどんなスキルが必要になるのか、といったあたりの情報が確実に伝わる必要があるだろう。
個人的には、SAPのビジネスでクラウドは苦戦するのではと思っている。いまのところは好調なようだが、この分野に力を入れれば入れるほど、既存のオンプレミスのビジネスを阻害しかねないからだ。HANAとは違い、クラウドは単純に市場のホワイトスペースをとりにいけばいいわけではない。ERPベンダーのSAPは、Salesforce.comなどからはレガシーなソフトウェアベンダーの1つと揶揄されることも多い。そういったイメージを払拭するためにも、SAP HANA、クラウドといった業界でのイノベーションは重要。これらをうまく使って、新たな革新的なサービスベンダーなのだというイメージを、ユーザーに植え付けなければならない。これについては、今回の決算数字を見る限りは、成功していることになるのだろう。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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