グリーンITの両輪
インターネットを中心とする情報ネットワークは、現代社会に欠かせないインフラとなっている。特にブロードバンド環境の普及により、高解像度の動画像の送配信や各種ITサービスが普及し、社会で扱う情報量は2025年には2006年の約200倍になるという試算もある。「情報爆発」は情報を処理するためのIT機器の情報処理量の急増と台数の大幅な増加をもたらし、IT機器による消費電力量が2025年には5倍になると見積もられている(図1)。
現在、日本国内でIT機器が消費しているのは全体の5%であり、仮に総発電量が変わらないと想定すると、25%を占めてしまう。一方、米国ではデータセンターの消費電力が過去6年間で倍増し、原子力発電所5基分の消費電力に達しているという報告もあり、世界的にも大きな問題として認識されつつある。
経済産業省 商務情報政策局 情報通信機器課 課長補佐の有馬伸明氏は「対策には2種類ある」と語る。1つはITの利用を制限することだ。たとえばネット利用を「使い放題」から従量制に戻せば当然、利用量が減る。しかし、それはユーザーと供給者の双方が望まない施策であることは明らかだ。政府としても「世界最先端のIT国家」を目指している以上、制限は最後の手段だろう。さらに日本では2050年に世界全体での炭酸ガス排出量を半減させる「Cool Earth‐エネルギー革新技術計画」を策定しているが、そこで鍵を握るのもやはりITだ。
そこで経済産業省においても2006年秋頃から、これまでの技術開発プロジェクトに加え、新たにIT機器の省エネに対しての検討を開始。その結果立ち上げられたのが「グリーンITプロジェクト」であり、予算要求の結果、政府原案として、2008年度30億円の規模を確保した。
有馬氏は「我々が提唱しているグリーンITはIT機器の省エネだけではなく、もう1つの大きな狙いがある」と語る。出発点ではIT機器の省エネが主眼だったが、議論の過程で1つの疑問が浮かび上がってきた。消費電力量だけを論じていては「IT機器は有害」となりかねない。情報爆発が起きていくと、「ITを持続的に活用できる社会」が成り立たなくなる可能性がある。そこで、「ITの環境への貢献」にも目を向けるべきではないか、というわけだ。
たとえば、生産プロセスにITが入ることにより生産効率が向上すれば、より少ないエネルギー消費での製造が可能になる。また、以前は難しかった一般家庭や商業ビルにおける省エネを、IT機器とセンサー、無線技術を駆使して図るHEMS(Home Energy Management Sys-tem)やBEMS(Building Energy Manage-ment System)の導入で実現可能になると期待できる。
「今までは生産性向上や、コスト削減という観点でのITの活用だったが、今後は省エネのためのIT活用がどんどん進むのではないか」と有馬氏は語る。ITを持続的に使用していくためには、ポジティブな面からも取り組んでいくことが必要だ。