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脱ハードウェアベンダ宣言!? - 「EMC World 2014」フォトレポート


 毎年、ゴールデンウイークにがっつり被せてくる米EMCの年次プライベートイベント「EMC World」ですが、今年も5月4日-7日(米国時間)の4日間に渡って米ラスベガスで行われました。ラスベガスの巨大ホテルでは、IT系に限らずさまざまなイベントが毎日のように開催されており、とくにEMC World 2014が行われたここ「Venetian Palazzo Las Vegas」は人気の場所。数千人を超える参加者を収容できる大ホールや広大な展示会場に加え、いくつもの会議室やセッションルームが1カ所に集中しており、そのすぐそばにはカジノ、レストラン、ショッピングモールがずらずらと並んでいます。筆者は毎月のように海外カンファレンスの取材に行きますが、ラスベガスのイベントはほかのところよりも圧倒的に非日常感が強く、かたーいイメージの強いエンタープライズのカンファレンスもオープンでフランクな空気のイベントに変わり、参加者の方々もひどく楽しそうに見えます。

 

 さて、今年のEMC Worldはストレージベンダとは思えないほどソフトウェア中心のイベントでした。高機能なフラッシュストレージやオブジェクトストレージの発表が来るとおもいきや、EMCがメインに打ち出してきたのはソフトウェアでもって多種多様なストレージの統合的なコントロールを可能にする"Software-Defined Storage(SDS)"です。最近、エンタープライズITの世界では"Software-Defined Network"など、ハード固有の機能や設定からユーザを解放し、ソフトウェアによるインフラの制御を可能にしようという流れが本格化しています。

 というわけで昨年に引き続き取材の機会に恵まれたEMC World 2014の雰囲気を、何枚かの写真をもとにお伝えしていければと思います。

 ▲EMC World 2014のテーマは「REDEFINE(新定義)」。ITだけではなく、ビジネスもライフスタイルも従来とはまったく違うものになりつつある中で、いかに生き残っていくかというメッセージがこめられているとのこと。この"REDEFINE"は期間中、ホテルのいたるところで目にしました。ホテルのキーカードもREDIFINE!

 ▲EMC Worldは一般向けのセッションとプレス/アナリスト向けのセッションが分かれていて別々のスケジュールに沿って行われます。プレスセッションでは製品オペレーション&マーケティングのエグゼクティブバイスプレジデント ジェレミー・バートン(Jeremy Burton)氏が新しく発表される製品やサービスの概要と補足をキーノートの前後に説明してくれるので、プレス関係者にはすごくありがたい。

 ▲5日のオープニングキーノート(ジェネラルセッション)に登場したEMC会長兼EMCグループCEOのジョー・トゥッチ(Joe Tucci)氏。EMCグループにはEMCのほかVMware、Pivotal、RSA(正確にはEMCのユニット)といった企業が含まれますが、この巨大グループの最高責任者がトゥッチ氏です。どうでもいい話ですが、この方、目と眉の間隔がものすごく狭いので、写真を撮るのがたいへん……。

 ▲今回のカンファレンスのビッグニュースのひとつがシリコンバレーのスタートアップ企業DSSDの買収。DSSDってなに?と思われた方が大半でしょうか、かのアンディ・ベクトルシャイム氏が創立したフラッシュストレージのスーパーエンジニア集団です。キーノートではトゥッチ氏がベクトルシャイム氏を紹介、「IT業界のレジェンドを迎えられることは本当にうれしい」と大喜び。フラッシュでは後発だったEMCはDSSDの創立から多額の投資を行ってきており、今回の買収はある意味自然な流れといえるかも。

 ▲トゥッチ氏からEMCコーポレーションのCEOの座を引き継いだデイビッド・ゴールデン(David Goulden)氏がオープニングキーノートに続いて登壇。とにかく早口で情報量が多い方なので、筆者の貧弱な英語力ではかなり聞き取りに苦労します(涙)。オールフラッシュアレイの「XtremIO」の"性能に不満があったら100万ドルお返しします"キャンペーン(正確には"The XtremIO $1Million Guarantee")や、Software Defined Storage(SDS)の「ViPR 2.0」、ViPRを載せたストレージアプライアンス「EMC Elastic Cloud Storage(EMC ECS)」などを発表しました。

 ▲ゴールデンCEOが発表したEMCのストレージ戦略。ストレージベンダといっても、高いストレージをお客に売ってそれでおしまい、というビジネスモデルの時代はとっくに終了。高機能&高価格なストレージだけでは生きていけないと悟ったEMCが現在最も注力するのは、コモデティの上でも動き、他社製品も含めさまざまなストレージを仮想的に統合するソフトウェアテクノロジ"Software-Defined Storage"です。カンファレンスのテーマである"REDIFINE"はEMC自身をも新たに定義し直すという意志のあらわれなのかも。

 ▲EMCのSoftware-Defined Storage戦略の中核となるのが昨年のEMC World 2013でお披露目された「EMC ViPR」。今回メジャーアップデートが発表されたViPR 2.0では扱えるストレージの種類が大幅に増え、オブジェクトストレージのIsilonや日立のストレージ製品もネイティブサポート対象に。OpenStackとも連携できるので、他社のストレージとの接続もますます容易に。

 ▲プレスセッションにもベクトルシャイム氏をはじめとするDSSDのメンバーが来てくれました。ベクトルシャイム氏の隣は現在DSSDでCEOを務めるビル・ムーア(Bill Moore)氏。旧Sun Microsystemsではデスティングイッシュドエンジニアでもあり、HPで3PARの開発に関わったこともあるスーパーエンジニア。DSSDはインメモリとHadoopに特化し、SAP HANAやHadoopを高速かつリアルタイムに動かすフラッシュアーキテクチャが高く評価されています。新しい時代には新しいプラットフォームを、というEMCの戦略にぴたりとハマる感じですね。

 ▲翌6日はEMCグループのVMwareやPivotal、そしてパートナー企業との連携(EMCフェデレーション)が強くアピールされた日でした。今回のカンファレンスのテーマである"REDIFINE"はEMCのみならずEMCフェデレーション全体に共通するポリシー。ストレージを含むEMCの統合インフラ(EMC II: EMC Information Infrastructures)の上でVMwareの仮想化基盤が稼働してSoftware-Defined Datacenter(SDDC)を構築し、その上でビッグデータアプリケーションを開発/デプロイするPaaSレイヤのPivotalが存在、3つのレイヤはRSAによるセキュリティ製品によって守られ、その周辺をパートナー企業によるソリューションが取り囲む。ただし、そのつながり方はあくまでもゆるく、各社の独自性は尊重する - いわば"疎結合"であることをよしとした集合体、それがEMCフェデレーションといえます。

 ▲6日のキーノートにまず登場したのはVMwareのCEO パット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏。VMwareの顔としてすっかり定着した感じ。現在、VMwareは全社を上げてSoftware- Defined Datacenter(SDDC)の実現に取り組んでおり、よく知られたサーバの仮想化だけでなく、ネットワークの仮想化(VMware VNX)にも積極的に乗り出しています。Eaglesの"Hotel California"を流し「いまのクラウドは"Hotel California"のようなもの。チェックアウトしようにもいろいろ拘束されて部屋から出ることができない」とパブリッククラウドのベンダロックイン状態をかるくdisっていたのが印象的。

 ▲ゲルシンガー氏のあとにキーノートに登壇したのはPivotalのCEO ポール・マリッツ(Paul Maritz)氏。あいかわらず存在感がハンパない方です。2012年にVMwareのCEOを降りたときはかるく大騒ぎになりましたが(MicrosoftのCEO候補にもなりましたね、そういえば)、現在はEMCからスピンアウトしたビッグデータベンチャーPivotalのトップとして、Cloud Foundryをベースとするオープンソースをベースにアプリケーション開発の世界を大きく変えようとチャレンジを続けています。「ラピッドな開発にシフトするということ、これはテクニカルな問題だけでなくカルチャーの問題をはらんでいる。長年、企業にしみついた文化を変えるのは簡単ではない」としつつも、オープンソースベースのアジャイルな開発以外に選択肢はありえないと強調。

 ▲キーノートのあとのプレスカンファレンスにEMCフェデレーションのトップが全員集合。4人揃うとさすがの迫力です。「ハードウェアベンダのEMCがどうしてPivotalのようなソフトウェア開発の会社を傘下にしているのか、意味がわからない」という質問に対し、ゴールデンさんは「EMCはもはやストレージの企業ではない。いまやソフトウェア企業でもある」ときりりとお答えに。大きな釣り針に盛大に(わざと?)ひっかかかっておられました。

 ▲EMC Worldでは毎回、大きな事例がいくつか発表されますが、今回はかのジェームズ・キャメロン監督が現在製作中の「Avatar 2」について紹介が行われました。6日午後のキーノートには「タイタニック」(1997年)のころからキャメロン監督とともにリアリティあふれるSFXを追求してきた映画プロデューサーのジョン・ランドー(Jon Landau)氏がオスカー像をもって登壇しました。「Avatar 2」の現場ではオブジェクトストレージのIsilonやエンタープライズ用ファイル共有ソフトウェアのSymplicityなどを活用中。「Avatarの映画界における最大の功績、それはフィルムメーカーが"作りたい、描きたい"と思ったシーンは(テクノロジの力で)実現可能だと示したこと。タイタニックでは20世紀フォックスはCG制作費の(たったの)75万ドルを支払うことをすごく嫌がった」とCG/SFXに対する見方が大きく変わったとコメント。ランドーさんはプレスセッションにも登場し「ITは映画製作にかかわる人間にとって大切なイネーブラ」とITの重要性をアツく語ってくれました。

 ▲プレスが参加できる最終日の7日はLotus、Vodafone、MLB Advanced Media(MLBAM)などの大型導入事例がプレスカンファレンスで発表されました。とくに興味深かったのはMLBAMの事例。日々の試合で発生する膨大な試合画像を格納するストレージとしてIsilonを選択、旧ソリューションに比べてCapexもOpexも大幅に下がり、コンテンツがどんなに増えてもスケールしやすくなったとIsilonを大絶賛。写真はMLBAMのサービスシステム部門でシニアディレクターを務めるフリードリッヒ・スイフト(Freidrich Seifts)氏。「僕は本当にIsilonが大好き。MLBが求めるスケールの要件にこれほどぴったりのストレージはない。ファンにホンモノの"ビッグデータクラウド"を届けられるようになった」とのこと。自社の製品をこう言ってくれるお客さんがいるのはベンダにとって幸せなことですね。

 ▲会場はとにかく広い!のひとこと。あまりに広すぎて期間中に全部見て回るのは難しいかも。EMCフェデレーションの関連製品にかぎらず、データセンターを効率的に稼働させるための各社の製品が数多く展示され、ミニセミナーもあちこちで開催。歩き疲れた人のために、巨大クッションがいくつも置かれたくつろぎスペースも常設。ここではキーノートやセッションも映しだされており、ここでずっと寝て過ごしている人もいたもよう…

 ▲最近の大きなITカンファレンスでは最終日にメジャーバンドのライブが行われることが多く、EMC Worldでも6日の夜には人気急上昇中のバンド「Imagine Dragons」のライブが開催。筆者は全然知らないバンドでしたが、歌も演奏もうまくてびっくり! ビール片手にカンファレンス最後の堪能しました。聞けばImagine Doragonsは最近のIT系カンファレンスに引っ張りだこで、翌日のアナハイムでのCitrixイベントにも出演したとか。ちなみに去年のEMC Wolrdにはいまや大人気のメロディメーカー、ブルーノ・マーズが登場しました。写真が撮り放題なのも海外カンファレンスならでは。

 ***

 正直、ストレージ、それも高機能で高価格なストレージを大企業に向けて販売するビジネスを中心にしてきたEMCが、声高にソフトウェアへのシフトを表明し、"REDEFINE"を唱えても「?」な方々も多いかもしれません。しかし、ポール・マリッツ氏が言っていたように「たとえカルチャーとして受け入れにくいものであっても、生き残っていくためには変化していくしかない」というトレンドは、顧客だけでなくEMC自身にも当てはまる事情だといえます。モバイルやビッグデータ、クラウドというトレンドはハードウェアにひもづけられたITの時代を終わりに導こうとしています。その流れに抗うのではなく、"Software-Defined"であらたにITを定義し直そうとするEMC連合が今後、どれほど影響力を駆使できるのか、可能であれば1年後のカンファレンスでその答えを見てみたいですね。

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この記事の著者

五味明子(ゴミ アキコ)

IT系出版社で編集者としてキャリアを積んだのち、2011年からフリーランスライターとして活動中。フィールドワークはオープンソース、クラウドコンピューティング、データアナリティクスなどエンタープライズITが中心で海外カンファレンスの取材が多い。
Twitter(@g3akk)や自身のブログでITニュース...

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