筆者はここ数年、AWSを中心にクラウド業界を見てきましたが、競合であるMicrosoft AzureやGoogle Cloud Platformの急成長は高く評価されるべきであるものの、やはりクラウド、とりわけIaaSに限って言えばAWS以外の企業がトップの座につくことは当面ないと考えています。これは大手の調査会社のリサーチでも明らかで、たとえば米Canalysが発表した調査結果によれば、AWSのIaaS市場における現時点のシェアは33.8%と圧倒的で、あとに続くMicrosoft、Google、IBMの3社のシェアをすべて合わせても30.8%にとどまっています。少なくともあと数年は、AWSがクラウドの王者としての称号を他社に譲ることはないでしょう。
パブリッククラウドという市場を作り出したパイオニアでありながら、10年以上に渡ってシェアトップの座をキープし続けているAWSの強さは何に起因するのでしょうか。その理由について、AWSのパートナー企業であり、Amazon Redshiftを事業の中心に据えたデータビジネスを展開する米FlyDataのファウンダー 藤川幸一さんへのインタビューから探ってみたいと思います。なお、本インタビューは2016年11月に米ラスベガスで開催されたAWSの年次カンファレンス「AWS re:Invent 2016」会場内のソリューションセンター(出展社ブースが集まっている場所)に設けられたFlyDataの出展ブースで行いました。
―今回のre:Invent 2016を振り返って、藤川さんが「AWSらしい」と感じたポイントはどんなところでしょうか。
藤川さん: 大きく3つあります。ひとつはIaaSベンダとしての基盤の拡充がさらに進んで成熟してきたということ、2つめは攻めと守りのバランスのすばらしさ、とくに今回は攻めの部分が際立っていましたね。そして最後の3つめはBtoB、エンタープライズへのフォーカスがより強くなったという点です。
―じゃあ順番にご説明していただければ。まずは最初のIaaSベンダとしての…というところからお願いします。今回のre:Inventでは24ものサービスが発表されましたが、藤川さんはどのあたりにAWSの"成熟"を感じられたんでしょうか。
藤川さん: なんといっても「Amazon Athena」ですね。AthenaはではS3上の生データに対し、SQLクエリを直接投げてアドホックに実行できるんですが、これを本当にすごいサービスです。聞いたときはさすがAWSだと思いました。
―AthenaはPresto(オープンソースの高速クエリエンジン)を実装したマネージドサービスですよね。すでに似たようなサービスとして「Google BigQuery」があるわけですが、藤川さんがそこまでAthenaを高く評価する理由は?
藤川さん: たしかにPrestoベースですが、AWSは単にAthenaのフロントとしてPrestoを選んだだけで、重要なポイントはそこじゃない。BigQueryの対抗と見る向きもありますが、その比較自体にはあまり意味がないと思います。Athenaがすごいのは、AWSがもつ膨大なコンピューティングリソースを利用して、クエリを何千何万ものコアに自動で分散して並列実行できる点です。だから非常に高速に結果を返すことができる。S3の生データをETLで処理したり、別のデータベースに落とし込む必要もありません。ビッグデータアナリティクスのユーティリティとして考えると本当に良くできています。
―ユーザから見たらS3に向かってSQLクエリを投げたら、インタラクティブな感じでさくっと結果が返ってくる、みたいなイメージですが、実はバックエンドではAWSのコンピューティングパワーがフル稼働しているワケですか。データサービスとしてはたしかに革新的だと思うのですが、ご指摘の"成熟"の意味がよくわからないのですが。
藤川さん: Athenaは非常に汎用的なサービスです。AWSにはペタバイト級のデータを扱える汎用的なサービスとしてほかに「Amazon EMR(Elastic MapReduce)」と「Amazon Redshift」があるんですが、今回のAthenaのリリースで汎用向けのサービスがほぼ揃った感があります。成熟してきたというのはそういう意味ですね。