クラウドとモバイルはエンタープライズにとってもはや2大テーマとなっており、特に今年に入ってからは、モバイルが以前にも増して熱を帯び始めています。しかし一方で、情報システム部門やSIerの現場では、既存業務との適合性やコスト効果になかなか答えを見つけらず、苦戦していることが多いようです。
現在、エンタープライズモバイルの情報発信源は、製品ベンダが主導です。SIerや情報システム部門の感覚からすると、彼らは単に製品を売り込みたいだけなんじゃないかと、尻込みしてしまうのではないでしょうか。しかし、本当にそれが企業の働き方を変革し、競争力を高め、売上アップに貢献できるのであれば、そこに間違いなく飛びつきたい。だからこそ、ベンダにロックインされない、純粋なエンタープライズ・モバイルの情報を欲するはずです。
今回、そんな要望に答え、複数の製品ベンダを集めてフラットに情報発信が行える場を作ってみようと、2014年7月31日、御茶ノ水で開催された「Developers Summit 2014 Summer」にて、エンタープライズ・モバイルの製品ベンダ4社を集め座談会を開きました。本記事では、モバイルの導入に必要なあらゆる要素が盛り込まれたこの濃い一時間半を、タイムライン形式でお届けします。提案や導入の検討に役立てて頂けますと、企画者である私としても幸いです。(モデレーターは、NTTコムウェア株式会社の川田 寛)
- 井上 憲氏 (日本オラクル株式会社 Fusion Middleware事業統括本部 ビジネス推進本部 製品戦略部 マネジャー)
- 大西 彰氏 (日本マイクロソフト株式会社 デベロッパー エクスペリエンス & エバンジェリズム統括本部 エバンジェリスト)
- 井口 和弘氏 (SAPジャパン株式会社 Analytics&Mobility ソリューションズ ディレクター)
- 佐々木 志門氏 (日本アイ・ビー・エム株式会社 ソフトウェア事業本部 WebSphere事業部 テクニカル・セールス)
- 川田 寛氏 (NTTコムウェア株式会社 品質生産性技術本部 技術SE部 エバンジェリスト)
モバイルが業務と密に繋がり価値を求める時代へ
司会 川田:まず、世の中全体で普通はどうやってモバイルを適用するのかという、動向を聞きかせて頂きたいのですが?
Oracle 井上:2~3年前に、経営層にタブレットを配ったり、どこで使えるかはわからないけれど、営業さんにタブレットを何千台も配るというのが流行りましたよね。ただ、よく使い方がわからなくて、メールとカレンダーぐらいしか使わないのだったら、やっぱり回収しますというのはよく聞きました。
最近の動きとしては、企業には既に業務システムが社内にはありますので、それをモバイルでも扱えるようにして「Application Anywhare」という形にできれば、生産性は上がるのではないかという流れに入っています。ただそれには、セキュリティの問題が絡んできますので、そこを鑑みて「どこまで業務システムを見えるようにしていくのか」というのに、チャレンジしていくお客様が多くなってきました。Oracleの場合、セキュリティを改善するため「Oracle Mobile Security Suite」を導入するような形で関わらせて頂いていますね。
司会 川田:タブレットをとりあえずで導入してみるという段階が終わって、モバイルが社内で動いているシステムと密接に繋がり、効果を求めるようになったんですね。
導入の価値を知るには、まずモバイルを活用した「働き方」を知るべき
司会 川田:これから企業のシステムは、モバイルファーストを前提としていく方向で間違いないんですよね?
Microsoft 大西:モバイルファーストについて議論する前に、そもそもの大前提の部分についてお話しなくてはいけません。「モビリティ(モバイルを活用した働き方)」についてです。Microsoftは今、変革の中にあります。Microsoftは昨年まで、みなさまに「デバイス&サービスの会社になる」と、お伝えしてきました。しかし、代表がサティア・ナデラに交代した今は「プロダクティビティ(生産性)とプラットフォームの会社になる」と、お伝えしているんですね。人々が何かを達成するという活動の中で、「モバイルファースト&クラウドファースト」を実現していけるような、そういうプロダクティビティを再定義しようとしているんですよ。そして今、Microsoftがモバイルに対して考えているのは、スマートフォンやタブレットという括りでなく「モビリティ」です。
人々は生活の中で「移動」を繰り返していますよね。朝起きて、会社に行って、会社の中でも移動して、仕事が終わって帰る。家ではタブレットを使うかもしれないし、移動中はスマートフォンを使うかもしれない。会社ではPCやタブレットを使うのかもしれない。OSもWindowsではなく、iOSやAndroidなのかもしれない。このような生活環境の中で、何かを達成するのに、一種類のデバイスだけでは解決できないんです。Microsoftは今、こうしたモビリティの中で、モバイル(の果たすべき役割)を定義しているんです。
モバイルを考える上で、よく話に挙げられるのが「働き方の変革」という言葉です。職場を例に挙げると、Microsoftの場合は、社員が固定席や固定電話を持っていないんですよ。支給されたノートPCやタブレットを使って、通話もLyncというソフトを使って、基本的には毎日がモビリティなんです。その話を聞いて、見学に来られるユーザ企業さんもいたりします。そこでモビリティというものを理解をされて、活用されるようになる方が非常に多いのですよ。
お客様の話を聞いていると、みなさんはなかなかメールとブラウザから出られずにいるようです。従来のWindowsアプリの方が楽だと考えてしまうようですね。そういう場合、まずこれから先10年間の「働き方をどうするのか?」から、入っていくと良いでしょう。
司会 川田:10年先…、話が壮大になってきましたね。
Oracle 井上:実は、このコンテキスト、Oracleでもよく話に上がってくるんです。これは、あるデバイス機器会社さんの事例なのですが…。
モバイルは「IoT」「M2M」として価値を発揮していける
Oracle 井上:Oracleにとってのモバイルは、「IoT」とか「M2M」とか、あらゆるものがネットワークに繋がっているものの「One of them」として語られることが多いんです。ネットワークに繋がっている、IoTデバイスのうちのひとつとして扱うのです。モバイルには、カメラや位置情報などのデバイス固有の特性があるので、これらを活かしつつ、またスクリーンが小さいという特性もありますので、その時に見たい情報、見る必要が無い情報を、区別して扱います。
例えば、これはあるデバイス機器会社さんの事例なのですが、その会社が販売しているのはネットワークデバイスでして、ネットワークを通じて、デバイス故障などの様々な情報を常に発信し続けています。その会社はデバイスの修理派遣も行なっているのですが、派遣される修理工もモバイルを持っていて、位置情報などを常に発信しているんです。特に何の作業も行なっていない間も、デバイスは常に情報を発信し続けているんですよ。
そしてその企業は、デバイスが発信している情報や、修理工のモバイルが発信している位置情報を活用して、もっとプロアクティブに修理工を派遣して、サービスを強くしていこうとしているんですね。デバイスの特性を活かしつつ、ネットワークに繋がっていることでデータソースへと繋がる。色んなデバイスがある中の「One of them」としてモバイルを扱う。そういう意味で、大西さんの仰られていたモビリティには強く共感できるんですよ。
Oracleの場合。モバイルであっても、サーバサイドや他のスモールデバイスと同じように開発ができるようにすることで、デバイスやインフラをまたがってサービスを検討できるようにしたいという想いを持っています。これを実現するために、アプリケーション開発にはJavaにこだわりを持っていますね。