ここ2、3年、システム開発の現場における、メンタルヘルスの問題が、急速にクローズアップされつつあります。多くの働き盛りのエンジニアが突然「うつ病」になってしまうのは、なぜなのか? メンタルヘルスは決して個人だけの問題ではありません。この連載ではメンタルヘルス問題への理解を深めるとともに、健康に働くための現代の心のヘルスケアについて考えて行きます。 今回は、問題の背景と、エンジニアを取り巻く重層的なストレス環境を考察してみます。
名もなきエンジニアのいわく
これ以上病人が出ませんように
(開発神社)
2年後は医者と職安待っている
(8年前の週刊アスキー)
まったくエンジニアの警句・名言は鋭いものですね。
ここでいう「病人」、「医者」というのは癌のことを指しているのではありません。いわずとしれた、「メンタルヘルス」のことです。癌は確かに大変ですが、多くは50~60歳を過ぎて人生の良いも悪いも味わってから、かかるもの。いわば、枯れはじめた頃やってくる病気。そして、うまいこと手術ができれば完治する。

ところが、今の日本では、20~40歳代という人生上り坂の時期に、多くのビジネスマンが「うつ病」で倒れています。
特に、ここ2、3年は、システム開発の現場でも、メンタルヘルスの問題が、急速に台頭しつつあります。「3K」職場などといわれ、残業続きの激務にさらされたあげく、担当者が「うつ病」などになり、開発チームが崩壊、プロジェクト頓挫、といったことも実際に起こっています。
心の病気、とりわけエンジニアに増えているうつ病は、「心の落ち込み」というなまやさしいものではなく、働きたくても働けず、死にたくなるほど辛い病気。実際、自殺の原因のトップはうつ病(※1)なのです。
警察庁などの自殺の統計資料の発表ではローン、家庭問題などが、直接的な引き金が原因としてあげられていますが、医学的には、自殺のほとんどは、精神病によって正常な判断力が失われて取る行動とみなされ、その7割はうつ病です。
うつ病は割に合わない
うつ病は薬の進歩で入院せず治るようになったけれど、月単位(多くは3ヶ月以上)で休業しなければなりません。エンジニアにとってみれば、病気を治すための負担と、休業⇒失業という大きな経済的ダメージが生じます。中にはエンジニアの道を断念する人もいるのです。
ところが、癌ならば手術・入院ということで気の毒がられるけれど、メンタル関係では誤解が多い。
開発の仕事に孤軍奮闘し、がんばりのあげく過労で発病したというのに…、
- 「入院もせず自宅療養?」
- 「また脱走か!」
- 「落ち込んだだけで辞めるとは、怠けじゃないの?」
などと思われる。
まったく、現代社会ではうつ病は割に合わない病気なのです。
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鈴木 安名(スズキ ヤスナ)
(財)労働科学研究所 主任研究員 医学博士(産業医、内科医)。旭川医科大学卒業。メンタルヘルス研究の成果にもとづき、企業の対策をサポート。著書は「人事・総務担当者のためのメンタルヘルス読本」(財)労働科学研究所出版部など多数。モットーは「現場のビジネスマンから学ぶ」。著者のサイト:職場のメンタルヘルス
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