環境への影響が大きい「製品」を主軸に展開されるインテルの環境配慮活動
セミナーの前半では、インテルの環境配慮活動について、同社下野文久氏より4つの柱を軸として説明がなされた。まず1つ目の柱は「持続可能な製造体制」である。半導体事業は設備事業といわれるほど、同一地域での製造期間が長い。つまり、同じ場所で製造をし続けるために「環境に配慮した設備」の構築が不可欠だ。インテルはいち早く14年前から「環境レポート」を公表し、その後も情報開示や透明性に努めてきた。その内容はCO2のみならず、揮発性有害物質等にも及んでいる。これは、市場に対する正直さを表すとともに、次への目標設定を意識したものだという。さらに2003年以降は企業全体での包括的かつ継続的な取り組み、ハードルを上げつつ長年に渡って環境配慮活動を進めてきた。現在、米国最大のグリーン電力購入企業となっている。
そして2つ目の柱は「電力効率に優れた性能」だ。インテルの企業活動におけるCO2排出量は約400万トンだが、出荷した「製品」によるCO2排出量は1630万トンにも及ぶ。つまり、製品の省電力化を実現すると、より大きな効果が得られるというわけだ。そこで、インテルでは、業界初の45nm High-kプロセス技術など、性能を上げつつも消費電力を下げるための技術革新を行っている。最新のプロセッサーを搭載したサーバーの場合、数年前の製品と比べ、電力効率が8倍にまで向上している。そのコスト削減効果により、サーバー購入コストはわずか2年で回収できるという。
このサーバーの性能および電源効率の向上を検証する事例として、SAP社内で行われた検証事例がゲストスピーカーのSAPジャパンの細川卓也氏より紹介された。細川氏によると、この検証では、旧世代のシングルコア・プロセッサー搭載サーバー2台で運用されていたSAPアプリケーションが、最新世代のクアッドコア・プロセッサーである、インテル® Xeon® プロセッサー 5400番台搭載サーバーでは1台で運用可能、大幅な消費電力かつC02削減が可能になるという。これは、単にハードウェアに起因するだけでなく、SAPのアプリケーションが、インテルの最新プラットフォームに最適化されていることにもよる。この検証事例の詳細はカタログ化されインテルのWebサイトにも掲載されているのでぜひ参照されたい。
見過ごされがちなクライアントPCの消費電力
インテルの下野氏は、次に、見過ごされがちなクライアントPCについて、グリーンITを考える必要性を訴えた。下野氏はクライアントPCが、企業ITにおけるCO2排出量の約40%を占める報告に触れ、vPro™ テクノロジー インテル® Core™2 プロセッサーを紹介した。このプロセッサーを搭載した企業向けPCでは、前世代製品と比べて30%の性能向上と55%の省電力化を同時に実現している。さらに、リモートで電源をON/OFFする機能やセキュリティー機能、PC管理を容易にする機能などがチップセットに組み込まれている。電力効率と業務効率が両方向上されることでグリーンITへのさらなる貢献が可能になるわけだ。
後半では、3つ目の柱として、鉛フリーなど、機器を資源化するために不可欠な「環境に配慮した設計」、そして4つ目は「ポリシーと業界各社との連携」を紹介した。
この4つ目の例としてインテルが参加する、グリーンITのNPOがいくつか紹介された。そのひとつのクライメート・セイバーズ コンピューティング・イニシアチブ(CSCI)は、グーグルとインテルが中心になって2007年に設立された。サーバーやクライアントPCの消費電力削減に主眼をおくCSCIは今年から日本での活動も積極的に行っており、インテルのセッションの後のパネルディスカッションにもCSCIのボードメンバーである、マイクロソフトが参加している。また、業界各社との連携のもうひとつの例として、ゲストスピーカーのSAPジャパンの細川卓也氏が、先の検証事例に加えて、SAPエンタープライズSOAを紹介した。
インテル製品を使用した「高汎用性&低環境負荷」のSAPエンタープライズSOA
冒頭、細川氏は「企業における環境対策の効果算定の複雑さ」について言及。つまり、環境負荷は一般的には外部経済の問題(市場原理を通して「価格」といった共通の尺度でトータルに比較・評価できる形になっていない)であり、環境負荷の高い既存設備を、環境負荷の低いと言われている新しい設備に置き換えたとしても、それぞれの設備を生産し、また廃棄するプロセスで発生している環境負荷までも含めてトータルに低減効果を算定できなければ本当の意味での効果算定にはなっていないという例をあげている。つまり環境負荷を「ライフサイクルアセスメント」を通して評価することが必要で、しかしそれも一筋縄ではいかないという。
例えば、一つの設備の生産にはさらにその原料やその設備を生産する為の設備が必要であり、またその原料といった具合にチェーンをなして続いている。それらを考慮しながら環境負荷をトータルに比較・評価できる方法の確立が今求められているという。
製造に使われる電力一つ取っても、価格は同じでも石炭から作られた電力と石油からのものでは環境負荷が異なる。しかしながら、電力となってしまえば「どのように生み出されたものか」は色が付いているわけでも無く識別ができない。
他にも、環境負荷削減効果を算定する際にどの程度の期間を持って算定するか、つまり長期的視点と短期的視点では結果が異なることがある。例えば「植林」は木が二酸化炭素を吸収して成長するまでの短期的期間においては効果があるという結論になるが、木が朽ちるまでの長い期間で見ればプラスマイナスゼロということになる。また長年環境負荷低減に積極的に取り組んできて十分に効果をあげている国や企業と、これから取り組む国や企業を同じ時点から比較して環境負荷の「削減率」を比較することにも難しい問題が生じることになる。
現在、市場を通した一元的な尺度を得て外部経済の内部化を図るために、環境負荷をいかに市場原理の中に取り込み、そして共通の尺度を持てるかという観点で、排出権取引などの導入が海外では積極的に検討されている。
SAPはこういった環境問題の複雑さを良く理解した上で、バリューチェーンの中でどのようにSAPがその様々なステークホルダーの環境負荷低減に対し貢献できているのかを明確にするよう取り組みを進めている。まず当然SAP自体が環境問題を考慮したCSRを重要視し、ソリューションを開発する際の環境負荷の低減に真剣に取り組んでいることが必要で、それは多くの第三者機関によって評価されている。
またSAPのソリューションを活用することによってお客様企業の活動がより環境負荷の低いものになるように取り組んできている。その1つとして、SAPは長年のそのソリューションをより汎用性の高い環境で稼動できるよう一貫して開発を進めてきているが、一般的に汎用性の高い稼働環境ほど過去大きく環境負荷を低減してきている傾向にあり、結果的にお客様企業が大いにその環境負荷低減効果を享受できることにつながっている。例えばそれは年々大きく消費電力を削減してきているインテル製品を搭載した最新プラットフォームをいち早く活用できるようにすることであり、具体的に、その最新環境の消費電力削減効果をSAP内のラボでSAPシステムに当てはめて測定し参考資料として公開するような活動をインテルと共同で実施してきている。
また、かつてSAPは会計まわりの(法規制に適応した)システム提供がメインで、SAPのシステムに顧客側のシステムを合わせて頂くような提供方法も多かったが、昨今は個別の業界や企業がその豊富で独自の企業付加価値を蓄積してきたCRMやSRMといったフロントエンドソリューションの分野に提供範囲を拡大している。そこでは従来とは逆にお客様企業のバリュープロセスにSAPの個別機能を柔軟に組み合わせて適応していく提供形態が始まっている。また、あるお客様企業あるいはある業界のバリューネットワークスを製品機能に取り入れ、再度SOAに基づいて別のお客様企業に提供していくようなエコサイクルを実現している。こういったSOAはまさに汎用性の高い環境を活用しており、その環境負荷削減効果も大いに期待できることになる。
最後に、SAPは海外では環境ソリューションとして既に、お客様企業がどの程度温暖化ガスの排出を低減しているかをモニターしたり、製品廃棄をトレースするような製品を多数提供しており、日本においても今後順次展開していく予定とのこと。
ソフトウェアとハードウェアの両面から考えるグリーンIT
インテル、SAPの両社の話をあわせて聞くことによって、実際に企業が利用するソリューション環境を想定してどのようにグリーンITに取り組むかが明確になる。また、ハードウェア、ソフトウェアの大手である両社が、互いの最新技術を用いて積極的に協力、グリーンITに取り組もうとしていることから見ても、グリーンITが企業にとっていろいろな面でいかに重要な課題であることがわかる。社会的責任や今後予想されるCO2削減義務等だけでなく、ハードウェアとソフトウェアの最新技術を取り入れ、ソリューションのグリーンIT最適化を考えることが重要だ。
【関連リンク】
・インテル エンタープライズビジネスサイト
・SAP検証事例