
今年の8月は雨が続いたこともあり、夏休みにビーチリゾートで遊ぶのではなく温泉でゆっくり英気を養った人も大勢いるだろう。都内から気軽に出かけられる箱根の温泉街も、そんな顧客で賑わったはず。箱根温泉の歴史は古く、開湯は奈良時代に遡る。そのため、代々受け継がれ長い歴史を持つ温泉宿も多い。そんな箱根は首都圏に近い保養地、観光地として、大いに賑わってきた。しかしながら近年は、何度も顧客が大幅に減るような「危機」も経験している。バブル崩壊やリーマンショックと言った消費の落ち込み、さらには東日本大震災による観光の自粛ムードも合った。そして直近の2015年には箱根山で火山性地震が増加し、箱根山周辺が気象庁により噴火警戒レベル2に指定され、大涌谷周辺は立ち入り禁止となる事態に。これらは観光客の大きな減少を招いたのだ。
箱根町は観光を科学して観光地そのもの経営するDMOを推進する
そんな苦境を何度か経験し、町全体で箱根が観光地として生き残っていくためにどうしていけばいいのか。そのための取り組みが始まっている。ターニングポイントとなったのは2015年の大涌谷の噴火だと言うのは、和心亭 豊月の支配人 杉山慎吾氏だ。個々の旅館やホテルの単位だけで集客に注力するのではなく、観光地そのものを上手く経営していくDMO(Destination Management Organization)を推進する。そのためには、観光地そのものを科学していく必要があるという。

箱根町ではDMOを推進し観光地を科学するために、前出の杉山氏など若手の旅館経営者ら20名程が実行部隊になり活動している。彼らは誘客宣伝委員となって、行政、観光協会、民間が協力して活動している。現状では年間2,000万人ほどいる観光客は日本の人口減などもあり、大きく増える見込みはないだろう。個々の宿泊施設ではより多くの顧客を獲得すべく競い合うとともに、官民一体となりなんとか箱根に来る観光客全体を増やす取り組みを行う。
そのためにやるべきことは、多々ある。たとえば「箱根全山」という、箱根に行こうと思う人が一度は訪れて欲しいWebサイトを開設している。この内容を単に観光情報を発信する場にするのではなく、内容を観光客に寄り添う形のものにしたいと考えている。情報を見てもらい、箱根に来てもらって消費をしてもらう。これにつながらない情報を発信しても、DMOを推進していくことにはつながらないのだ。
顧客に消費してもらうには、まず箱根に来てもらわなければならない。そのためには、観光客が知りたいであろう情報が確実に届くようFAQ(よくある質問とその答え)として掲載することが一助になる。とはいえ、一口に観光客と言っても、訪れる人人によってニーズはさまざま。「全てのニーズに合うFAQとなれば、膨大なものになります。そのようなFAQを実現するには、何らかツールがないと上手くいきません。観光地を科学して、顧客が箱根により訪れてもらえるようにするためには、適材適所でITのツールを活用できれば」と語るのは、ホテル おかだ 取締役営業部長の原 洋平氏だ。SIerでエンジニア経験もあるという原氏ならではの見解だ。

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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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