好調だった2024年業績、日本はグローバルの2倍の成長率を達成
2025年2月19日、SAPジャパンは代表取締役社長 鈴木洋史氏による2025年のビジネス戦略の記者説明会を開催した。説明会では、好調な2024年度の業績を踏まえ、2025年の戦略として「AIファースト・スイートファースト」を掲げ、AIテクノロジーの活用とビジネススイートの統合による新たな成長を目指すという。
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SAPは2024年度もクラウド事業が引き続き好調で、グローバルではクラウド売上が前年比26%増、クラウドERPスイートの売上が34%増と大幅な成長を遂げた。特筆すべきは、日本市場における業績で、SAPジャパンの2024年通年の総売上は20%増とグローバルの成長率の2倍を記録し、すべての指標においてグローバルの成長を上回る結果となった。
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鈴木社長は「日本市場においては、クラウドがもはやERPも含めてお客様から当たり前の選択肢となった」と述べ、大手企業から中堅企業まで幅広い顧客によるSAPクラウドソリューションの採用が進んでいることを強調した。
顧客採用事例として、RISE with SAPではENEOS、資生堂、日本ゼオン、日本航空、富士通をはじめとする多くの企業での導入が進み、新規顧客向けのGrow with SAPでも三井情報などが採用している。また、商船三井のように本社でSAP S/4HANA Cloudのプライベートエディションを使用し、グループ会社でパブリックエディションを採用するハイブリッドモデルの事例もある。
パートナービジネスも順調に拡大し、パートナー主導の実装ビジネスが飛躍的に成長。パートナー発掘案件からの受注金額は前年比約3倍に達した。これらの実績を受け、SAPグローバルの2025年見通しとしては、クラウド売上が216億から219億ユーロと前年比26%から28%の成長、営業利益が前年比26%から30%の成長を見込んでおり、SAPジャパンもグローバルと同等の成長を目指すことが示された。
SAPのAI戦略、ビジネスAIが業務革新を実現
2025年のビジネス戦略の中核として、SAPは「AIファースト・スイートファースト」を掲げている。すでに130以上の生成AIのユースケースがSAPクラウド製品に組み込まれており、AIはSAPアプリケーションの各業務プロセスに統合されているため、ユーザーは自然にAI活用を促進できるという。
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「今年の第1四半期にはABAP開発者向け、そして第2四半期にはSAPコンサルタント向けのAIアシスタントであるJouleが一般提供開始される予定」と鈴木社長は説明した。Jouleによってシステム導入や移行の時間が大幅に短縮され、開発要件を入力するだけでABAPが自動生成されたり、最適なパラメーター設定の手順が提示されるなど、開発コストの削減と品質向上を同時に実現できるようになる。
鈴木氏は今年の重点戦略として、2025年以降に展開される「ビジネスAI」を強調した。Jouleは業務のエキスパートとなり、複数のAIエージェント間で作業を連携して進める。これらのAIエージェントは自らの意思で行動し、SAPアプリケーションが対象とする業務プロセスをエンドツーエンドで実行できるようになる。
例えば、需要予測を行う販売担当AIエージェントがサプライチェーン担当AIエージェントに情報を渡し、さらに調達担当AIエージェントへと連携していくことで、需要と供給のプロセスが完全に自動で管理される仕組みが構築される。鈴木社長は「これこそが他社と大きく差別化できるSAPならではのビジネスへの優位性」と強調した。
ビジネススイートとクリーンコア、AIイノベーションを支える基盤
次いで、SAPのAI戦略を支える重要な要素として「ビジネススイート」の概念が紹介された。これはAI、データ、アプリケーションを統合したもので、単なるソリューションのポートフォリオではなく、これら3つの領域を統合することでイノベーションと継続的改善の循環を生み出す。
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新たに発表された「SAPビジネスデータクラウド」は、アプリケーションのデータを集中管理し、SAP以外のシステムで生成されたデータも含めて収集・統合することができる。鈴木社長は「S/4 HANAをクリーンコアに保つことによって、SAPビジネスデータクラウドでボタン一つで自動的にデータが整えられ、見たいダッシュボードが提供され、インサイトとともにAIがより活躍できる環境を迅速に整えることができるようになります」と説明した。
こうしたビジネススイートを導入しやすくするために、既存顧客向けの「RISE with SAP」と新規顧客向けの「Grow with SAP」というパッケージオファリングが用意されている。2025年はこれらのジャーニーを技術的・商業的に強化し、顧客のクラウドによるビジネス成長をさらに加速させることを目指す。
AIの能力を最大限に発揮するためには、「クリーンコア」の実現が不可欠だ。これはERPの標準機能を最大限に活用し、カスタマイズを最小限に抑えることで、常に最新のイノベーションを取り入れられる状態を維持する考え方である。
「クリーンなデータをどれだけ用意できるかということがAIには重要になる」と鈴木社長は強調した。SAPでは、クリーンコアを実現するためのツールチェーンとして、エンタープライズアーキテクチャー管理を行う「Signavio」や業務プロセスの管理・分析を行う「Signavio」、テストの自動化を行う「Tricentis」、エンドユーザー向け操作支援ツール「WalkMe」などを提供している。
鈴木社長は「残念ながら、日本のERP導入期間は海外の平均に比べると2.5倍から3倍ほど長いと言われており、それによるコストも大きい」と指摘。こうしたツールチェーンの活用により、導入期間の短縮とクリーンコアの実現を進めていく考えを示した。
パートナーエコシステムの強化とサステナビリティへの取り組み
2025年のパートナーエコシステムの強化の内容が語られた。2024年はパートナーによるクラウドビジネスが前年比44%増と大きく成長し、新規パートナー41社が加わり日本におけるパートナー数は500社を超えた。SAP認定コンサルタント数も前年比30%増となり、特にS/4 HANAクラウドのパブリックエディションに関わる認定コンサルタント数は前年比約5倍に増加した。
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2025年のパートナーエコシステム強化策として、3つの取り組みが発表された。1つ目は「パートナー自走モデル」で、首都圏・中部・関西以外の地域のビジネスをパートナーが案件発掘から受注・導入までを完全にドライブする仕組みの導入。2つ目はパートナー育成支援、3つ目は導入プロジェクト成功への支援として伴走型協業の実施である。
「クリーンコアやFit to Standardといったクラウドの導入方針を浸透させるべく、昨年から設置したプロジェクト支援担当者のもとで、ツールチェーンやAIを活用いただき、導入の効率化を推進していきたい」と鈴木社長は述べた。
また、社会課題の解決やサステナブル企業への変革支援にも注力する方針が示された。具体的には、大分大学と共同で開発を進める防災ソリューション「EDiSON」を中心とした災害対策の高度化支援、女性の自立のためのリスキリング支援「でじたる女子」の継続、小中学生から大学生までを対象としたデジタル人材育成、そして脱炭素への取り組みとして「グリーン元帳」による炭素会計の実現などが紹介された。
鈴木社長は「SAPジャパンは今後も各企業、またサプライチェーン全体のサステナビリティ課題の解決を通じて日本企業の競争力向上を支援し、日本企業の競争力復活を支援していきたい」と締めくくった。