AIブームにおける新たな問題とは
そんな時代になってくると、今度は、この人工知能を巡るIT紛争もその数を増してくるのかもしれません。今回、ご紹介するのは、そんな人工知能時代の特許を巡る問題です。もっとも、この事件自体は、一方の会社が、AIで作成した会計サービスが、別の会社が非AI(通常のプログラミングに基づくデータベースのテーブル参照)で作ったサービスの特許権を侵害しているというもので、2つの違いは、わりとハッキリしているのですが、この裁判の事例を見ていくうちに、これが、もしAI対AIの問題であったら、特許や著作権をめぐる権利争いというものが、非常に分かりにくくなるという危惧もあり、そんな場合に備えて、サービスを展開する組織や企業は、どのような備えをしておくべきなのかを考えるようになりました。今回は、そんなことを考えるようになった裁判の例です。非常に有名な事例ですので、今回は、実名でのご紹介になります。
人工知能の特許を巡る紛争
(東京地方裁判所 平成27年7月27日 判決より)
クラウド会計を提供するfreeeが、同じく家計簿やクラウド会計を展開するマネーフォワードに対して特許権侵害を理由とした「MFクラウド会計」の差止請求訴訟を起こした。
freee社は、ユーザ企業の社員が経費精算を行う際、精算に関わる摘要や金額情報を各種金融機関やクレジットカード会社などから入手し、そこに含まれる文字列などから仕訳項目を自動判別する機能を持っており、これについて特許も取得していた。
ところが、後続で同様のサービスを展開したマネーフォワード社の経費精算においても、同じようにキーワードから仕分項目を判別する機能があり、これがfreee社の特許を侵害していると訴訟を提起した。
これに対してマネーフォワード社は、自身のサービスには自動仕訳機能を有しているが、freee特許に記載されているような自動仕訳ルールではなく、機械学習を用いて自動仕訳を行っているから特許を侵害していないと主張した。
両者の機能の違いと主張
両者の機能について簡単にご説明すると、freee社の方法は、裁判所が「キーワード選択+テーブル参照方式」と名付けたように、摘要に使用されそうな語句をあらかじめデータベースのテーブルに登録しておき、それと一対一で経費仕訳項目と結びつけておく方式です。「吉兆」という言葉があれば「接待費」、「JR」という言葉があれば「交通費」という仕訳項目をシステムが候補として挙げてくれるというわけです。
一方で、マネーフォワードの方はどうかというと、この自動仕分けを人工知能を用いて行います。同社がこれまでの業務で貯めこんできた言葉と対応する仕訳項目のセットを学習教材として人工知能に覚えこませ、摘要として入力された言葉に対応する仕訳項目を候補として出してきます。
入力された言葉から自動的に仕訳項目の候補を出すという部分については、そっくりですが、その裏にあるアルゴリズム(コンピュータ上の処理手順)は別のものということになります。freee社としては「同じ機能ではないか」、マネーフォワード社としては「違うアルゴリズムだ」という主張になったわけです。
経費の摘要を入れただけで仕訳項目が自動で出てくるという仕組み自体がアイディアであり保護されるべきものであるという論と、保護されるべきはアルゴリズムであって、その部分が異なる以上、特許権を侵害しているわけではないとする論、皆さんはどちらに分があるとお考えでしょうか。