デジタル・ビジネスを推進する上で人材不足が最大の障壁
ガートナーが、企業の情報システムのソーシング担当者を対象に実施したWeb調査の結果、デジタル・ビジネスを推進する上で人材不足が最大の障壁であるのに加え、技術力と予算の適切な確保も課題であることが明らかになった(図1)。
ガートナー リサーチ&アドバイザリ部門 バイス プレジデントの松本良之氏は、今回の結果について次のように述べている。
「日本において、人材不足は、ITに限らず日本経済の課題として取り上げられています。デジタル・ビジネスで必要とされる人材は、企業の働き方や文化の改革を推進する能力を持った人材であり、要求される能力も極めて高いものになります。今回の調査でも、日本企業においてデジタル・ビジネスを推進するための人材の確保は困難であることが示されています」。
障壁の2位に挙がった技術力不足に関しては、長期にわたる日本経済の低迷により、企業でのIT投資が抑制されていたことが影響しているとガートナーではみている。日本企業においては、大規模ITプロジェクトを企画から経験した人材が少なくなり、さらに高齢化や採用の凍結、アウトソーシング指向の高まりなどもあって、レガシー・システムを中心に、限られたIT経験しか持たない人材が増えている。そのため、デジタル・ビジネスに取り組もうとしてもIT部門内に技術力が不足しているケースが散見される。
障壁の3位の予算については、デジタル・ビジネスの予算化や妥当性の確保の難しさはもとより、経営陣にデジタル・ビジネスに投資する意向があっても、保守運用とコスト削減が業務の中心であったIT部門にとっては、新しく企画・提案する能力が欠如していることが背景にあると分析している。
デジタル・ビジネスの推進には一定数の抵抗勢力も存在
今回の調査では、デジタル・ビジネスの推進における抵抗勢力の存在についても明らかになった。「抵抗勢力がある」とした回答者は全体の39%に上る。抵抗勢力の部門については、最も多かった回答が「経営トップ」、次いで「財務・経理部門」「業務部門」「営業部門」の順となった(図2)。
前出の松本氏は、次のように述べている。
「デジタル・ビジネスの推進には抵抗勢力が存在します。今回の調査結果では、IT部門が直面する抵抗勢力の筆頭は社長であることが判明しました。IT部門が主導するデジタル・ビジネスの成功のために、IT部門は、役員自らのコミットメントや、具現化に向けて経営サイドを巻き込める環境の構築を目指し、経営/役員層を関与させていくことが肝要です。そのためには、CIOやIT部門のリーダー1人1人が、経営レベルを納得させるビジネス知識や交渉能力を持ち、社長との信頼関係を構築できるようになる必要があります。また、他の部門の抵抗が強い場合は、その部門への対策をしっかりと行うことが重要です。社内の抵抗勢力とどう折り合いをつけていくのかが、今後のデジタル・ビジネス推進の課題でしょう」。
また、ガートナー リサーチ&アドバイザリ部門 バイス プレジデント 兼 最上級アナリストの足立祐子氏は、今回の結果について次のように述べている。
「IT人材の不足が、日本企業におけるデジタル・ビジネスの推進を妨げる最大要因であることは想定範囲内です。しかし、単純な人数不足だけでなく、最新の技術を使いこなせる人材や、企画能力に長けた人材、経営層をはじめとする社内外のステークホルダーと交渉できる人材など、役割に応じたさまざまなタイプの人材と能力の不足が、問題の根を深くしています。この難局を乗り切るためには、IT人材の採用や育成の強化だけでなく、ソーシングと調達能力の向上、IT戦略と予算の考え方や見せ方の変更、CIO個人のリーダーシップの強化など、多角的に切り込むことが重要です」。
なお、ガートナーは8月31日、「ガートナー ITソーシング、プロキュアメント&アセット・マネジメント サミット 2018」を開催し、国内外のアナリストならびにコンサルタントが、デジタル時代のIT人材を中心テーマに据えつつ、IT戦略・投資・組織・ソーシングなどのトピックにおける最新のトレンドや最先端の知見、洞察を提供する。