コロナ禍に伴うリモートワーク導入でセキュリティ課題が
日本国内で提供されるSNSサービスとしては最大級のユーザー数を誇るLINEだが、今般のコロナ禍を受けてさらにその利用が増えているという。2020年5月にLINEグループトークでやりとりされたテキストやスタンプ、画像の数は、同年2月と比べ41%増加しており、またLINE公式アカウントの新規開設数も同年3月から5月にかけて30%増加している。こうした動向について市原氏は、「コロナ禍の影響で人同士のリアルな接触が減った分、LINEを通じたリモートのコミュニケーションを図る機会が増えたものと思われます。また企業もリアル店舗の営業自粛を余儀なくされる中、デジタルの顧客接点により力を入れるためにLINE公式アカウントに注目しているようです」と考察する。
そうした中、LINE自身も新型コロナウイルスの感染拡大を受け、いち早く勤務体制のリモートワークへの移行を断行した。それまでも一部の従業員を対象にリモートワーク制度を運用してきたが、2020年2月14日からその対象を大幅に拡大する計画の検討を開始し、そのわずか12日後の2月25日には一気にリモートワーク体制へと移行している。
これだけ短期間のうちに準備を終えるためには、幾つかの技術的なハードルを乗り越える必要があったという。特に、従業員の自宅をはじめとするリモートワーク環境から社内ネットワークへアクセスするためのVPN接続のセキュリティ対策には、かなりの工夫を凝らしたそうだ。
多くの企業がコロナ禍に伴い急遽リモートワークを導入したため、既存のVPN接続機器に一気にアクセスが集中してパンクしてしまう問題が多発した。しかしLINEではそうしたリスクをあらかじめ予見し、早めにVPN接続機器を入れ替えて最大同時接続数を10倍まで拡大したために、そうしたトラブルに見舞われることはなかった。
一方、VPNの社内サポート担当者も他の従業員と同じくリモートワーク環境で働いており、業務を遂行するにはVPN経由で社内ネットワークにアクセスする必要があった。そのため、もしVPN環境自体に障害が発生した場合はリモートでの対応ができなくなり、出社して調査・対応に当たらざるを得なかった。当然、障害対応のスピードも遅くなるため、業務全体に大きな影響が及ぶことが予想された。
VPN接続の安全性にも、若干の懸念が残っていた。従業員がVPNで社内ネットワークにアクセスする際には、Active Directoryと連携したID/パスワード認証と、あらかじめ登録してあるメールアドレス宛に別途PINコードを送信する二要素認証を組み合わせて運用していた。これだけでも一定レベルのセキュリティ強度は保てるものの、もしActive Directoryとメールサービスのパスワードが同じだった場合はパスワードリスト攻撃による不正アクセスを許してしまう危険性が残っていた。