デジタル競争は第二幕へ、ディープなデータ活用に日本の勝機あり
「Connected Industries(コネクテッド インダストリーズ)」という言葉をご存知だろうか。政府が掲げる未来の構想イメージ「Society5.0」を実現するための産業のあり方として、経済産業省が2017年から掲げているコンセプトのことだ。同年3月にドイツで開催されたCeBIT(国際情報通信技術見本市)で、安倍前首相から日本が目指す産業の在り方として宣言され、インダストリー4.0を推進中のドイツとともに協力体制を築きながら推進していくこととなっている。
具体的には、日本が国際競争力を持つ5つの重点分野(自動走行・モビリティサービス、モノづくり・ロボティックス、バイオ・素材、プラント・インフラ保安、スマートライフ)を定めてデジタル化を進め、各分野へと広げようとしている。
推進にあたっては、この5分野について、データの利活用・標準化、IT人材の育成、サイバーセキュリティ、AI開発などを横断的な取り組みとしてアレンジしながら政策展開を行う。その上で、企業間のデータ連携や人とロボットのデジタル連携、あるいはサプライチェーン全体のデータ連携といった世界観を共有しながら、目指すべき姿を産業界と議論することで社会像を探っていく。
「Society5.0は”超スマート化社会”と銘打っているが、要は『サイバー空間とフィジカル空間が高度に融合した社会』であり、そこにデジタルを活用していくということ。しかし、政策がスタートした4年前は手探り状態で、まず何をすればいいのか端緒を掴むのが難しく、模索しながら進めてきた」と沼尻氏は振り返る。
海外の巨大ITプラットフォーマーに対し、デジタル競争の第一幕では日本企業は大敗を喫している。現在も、プラットフォーマーが事業領域を拡大していることも相まって、危機感は募るばかりだ。たとえばGoogleは、検索サービスなどを事業起点としながらも、自動運転車開発部門のウェイモ(Waymo)を分社化することで自動運転サービスの開発に本格的に乗り出している。
また、中国のバイドゥ(百度)も「アポロ(Apollo)」と呼ばれるAI駆動の自動運転プラットフォームの世界展開を狙う。他にも、Amazonはスマートコンビニ「Amazon Go」を展開していたり、Googleは米国大手の総合病院のメイヨー・クリニックと10年間戦略的提携を結ぶことで病院のデジタル化を進めたりと、実データを用いて実サービスに価値を返し、その範囲をどんどん広げているというわけだ。
沼尻氏は「リアルデータを利用したサービスの競争、これを『デジタル競争第二幕』と呼んでいるが、世界的な潮流であることは間違いない」と語り、「第一幕はIT企業同士の戦いという印象で、他の産業はその動向を横目で見ながら潮流を掴んでいくというスタンスだったが、第二幕ではもう他人事ではない。自分たちのビジネスの中でどのようにデータを使っていくべきなのか、あるいは海外を含めた同業・他業他社がどのような戦いを仕掛けてくるのか。全産業を巻き込んだ競争へ発展していることを認識すべきだろう」と警鐘を鳴らした。
しかし、沼尻氏は同時に「悲観することはない」とも語る。日本には、産業機器の稼働データやメンテナンスデータなどのリアルデータが多量に保持されているという。さらに、巨大プラットフォーマーも心拍数など”人間のディープなパーソナルデータ”までは深く追いきれていない。今後はリアルデータとディープなパーソナルデータにいかにアプローチしてビジネスに生かしていくのかが、日本が第二幕で巻き返せるかどうかの勝負どころというわけだ。