前回(「オムロン竹林一氏に聞く: 流れのある所にビジネスチャンスがある」)では、エコシステムデザイナーを標榜する竹林氏のイノベーションに関するこれまでの取り組みと、業界も巻き込んだデータビジネスへの想いやデジタル変革(DX)の本質についてお聞きしました。連載の後編は、攻めと守りのDXについてお聞きしたいと思います。
オムロン株式会社イノベーション推進本部 竹林 一氏
オムロンに入社後、新規事業として鉄道カードシステム事業、モバイルサービス事業、電子マネー事業を立ち上げる。経営幹部として、オムロンソフトウエア株式会社(IT)、オムロン直方株式会社(OT、EMS事業)、ドコモ・ヘルスケア株式会社(データ活用)にて代表取締役社長を歴任。現在、オムロン株式会社イノベーション推進本部 シニアアドバイザー
一般社団法人 データ社会推進協議会理事/経団連 サプライチェーン委員会委員、DXタスクフォース委員会委員/京都大学経営管理大学院客員教授(京都ものづくりバレー構想の研究と推進)
著書『たった1人からはじめるイノベーション入門』日本実業出版社
2つのトランスフォーメーション
──現在、「DX銘柄」と呼ばれている表彰制度は、かつて「攻めのIT銘柄」と呼ばれていました。デジタル変革(DX)に攻めと守りがあるのは何故でしょうか。
「攻めのDX」というのは、新たな価値「軸」への転換かなと思っています。従来のビジネスモデルや売り方の延長線上であれば、トランスフォーメーションやイノベーションという必要はないわけですが、従来のままでやっていくとヘトヘトになっていくので、新たな価値軸が必要です。もう一つ「守りのDX」の方は、データによる変革です。データは社内や組織のいたるところに点在している。この点在しているデータを繋ぐことにめちゃめちゃ時間かかっているので、これを効率化することが課題です。それによって(余力を生み出す)体質を強化することです。攻めも守りもどちらのDXも大事だなと思っています。
──「攻めのDX」に必要な軸のマネジメントとはどのようなものでしょうか。
元上司でカンパニー社長の方から、「軸は何や」としつこく言われたことがきっかけでした。彼は「幹」という表現もしていました。打ち合わせするたびに「木の幹を持ってこい、お前が持ってくるのは葉っぱみたいなアイデアばかりや」と言われました。
最初は、自分のアイデアが葉っぱか枝か幹かわからない。葉っぱは点にすぎない。「根本となる価値の源泉」としての幹があるからこそ、枝が出て葉が生えてくるわけです。「駅は街の入り口」というコンセプトは、いってみれば「幹」や「軸」といえるものなのです。事業部長の時にその方と6ヵ月間議論して「軸のマネジメント」の重要性を再認識しました。
──従来の軸から新機軸に取り組むべき理由について教えてください。
いいものを安く早くといった既存のビジネスの枠組みやモデルは、すでに消耗戦で、賞味期限が切れ始めています。ドラスティックに社会構造が変化する中で、全体像を捉えて新たな軸を設けて世界観を描いていく必要があり、市場にも社員やステークホルダーにとってもワクワクする新しいビジネスが必要だと感じています。