半熟仮想株式会社 代表 イェール大学 助教授 成田 悠輔氏
演繹と帰納のアプローチ
成田氏ははじめに自己紹介を兼ねて、教育や医療において、効果の予測などデータを活用した政策デザインに携わっていることやビジネス課題へのデータ活用の共同研究の取り組みについて披露し、幅広い活動領域でのデータ利活用の意義を提示した。
成塚氏は自らが率いるApptioがITファイナンスの領域でTBM(テクノロジー・ビジネス・マネジメント)という方法論を持ってIT投資によるビジネス価値創出を最大化に貢献する企業であることを語り、ITに関係するデータに対してデータドリブンでアプローチしていることを述べ、そのデータ活用に向けたアプローチについて、成田氏に意見を尋ねた。
成田氏は、「演繹」と「帰納」というタームで仮説・目的ドリブンとデータドリブンのアプローチを腑分けした。これまでは仮説が正しいかどうか検証したいという明確な目的があり、自分たちでデータを作り出していく演繹的なアプローチが効果的だったが、「今後は、何が問題なのか、どんな答えを出したいのかということ自体をデータの中から見つける試みが増えてくると思います」とデータドリブンの可能性を語る。
それは成田氏の近著である『22世紀の民主主義』にも貫かれている。コロナ禍の中で、民主主義的な政治制度の国々が上手くいっていない現象があることに注目したという。
「民主主義的な政治制度を持つ国のパフォーマンスが高いという仮説を、成果指標に従って確かめようと思いました。調べてみると、例えばコロナ禍の最中の2020年の経済成長は民主主義的な国ほど成長率が低い傾向があります」と指摘する成田氏。データを見る限り、コロナ禍という特殊な危機状況だけの結果ではなく、今世紀に入ってから、およそ20年間の平時の経済成長を見ても、ほとんど同様なパターンを示している。驚くべきことに、マクロ経済指標でもコロナ死者数のような公衆衛生指標でも「民主主義的な国ほど上手くいっていない実態が出ている」という結果が読み取れるという。成田氏は得られた傾向から「民主主義の危機的状況」を語る。
成塚氏はこうしたデータ分析・洞察の際の収集するデータや指標、その選択などについて掘り下げ、アプローチの意義と限界を尋ねた。