「いつもの」で通じる顧客サービスを夢見て
INSIGHT LABは2005年の創業以来、顧客企業を通じてデータ利活用に取り組んできた。事業の主力となるのがデータソリューションプラットフォーム「TERASU」。そこにはデータ分析基盤の「MatoMeru」、視覚化の「KizuKi」、AI/RPA/IoTの「+One」、加えてDXをサポートする「KakeDashi」の4つの軸がある。
これまで国内外に足を伸ばし、最先端のデータ活用を進めてきた同社。近年は新潟県に研究開発センターを開設するなど、地方におけるデータ活用やスマートシティにつながる取り組みにも力を入れている。取り組みに至るまでの経緯について同社 代表取締役社長 CEO 遠山功氏に訊いた。
元々、遠山氏は15歳ごろからプログラミングを始め、大学を卒業するころには10言語をマスターするほどITスキルには長けていた人物。学生時代の飲食店アルバイトを振り返り、遠山氏は次のように話す。「飲食店の常連は“いつもの”と注文したりします。かっこいいですよね。こういう配慮を初めてのお客さん、初めての店員で実現するにはどうしたら良いのか考えていました」。
たとえば気温が高く、来店客が40代男性なら「ビールとギョウザ」というように、状況と顧客に応じてレコメンドするという具合だ。後にIT企業の業務を通じて、このアルバイトの経験を基に思い描いていたことがデータベースマーケティングで可能だと気づき、INSIGHT LABの設立につながった。
そして、起業から十数年が過ぎたころ、新潟での取り組みが始まることになる。新潟は遠山氏のルーツにあたり、夏休みに親戚から「そろそろ新潟にも拠点を」と水を向けられたことをきっかけにビジネスの可能性を模索。あるとき、新潟のIT企業誘致イベントを見かけたことが大きな転機となった。「普段は予定がびっしり詰まっているのに、なぜかイベント開催日だけぽっかりと空いてました。これはもう行くしかないと思って」と遠山氏はイベントに出かけ、新潟での新たな一歩を踏み出すことになる。
遠山氏が重視していたのは雇用創出と大学との共同研究。検討を進めているころにコロナ禍が重なり、海外渡航が困難になったこともあり新潟の事業に集中することになった。
新潟にまつわるデータプラットフォームを着々と構築
データの活用から経済活性化につなげようとしても「そもそもデータがない」ところからのスタートだった。今では新潟に関するあらゆるデータを収集し、利活用できる「越後データプラットフォーム」が動き出している。
格納されるデータはオープンデータやサービス事業者からのデータもあれば、スクレイピングで取得するもの、アナログデータから登録するものもある。データを取得、整備、統合して「ECHIGO DB」というデータベースに蓄積。収集したデータから、データ分析や利活用を行う。
このプラットフォームの特徴は雇用創出だけでなく、育成や教育も盛り込んだ取り組みにつながっているところだ。データ分析のコンペティションにおけるデータサイエンティストの育成、データ利活用における起業家の育成も含めて、新潟大学との共同研究を進めている。
この越後データプラットフォームの活用事例となるのが、子育て世帯向け生活情報アプリ「ガタリコ」。生活情報には地域のゴミ出しの曜日、不審者情報、小学校の給食、バス運行情報、休日や夜間診療の情報、さらに、くま出没情報まで網羅している。育児中の課題解決という観点で、必要とされる地域特有のデータを1つのアプリに集約した。このアプリは地方自治体のデータ活用コンテストとなる「アーバンデータチャレンジ(UDC)2020」で金賞を受賞。遠山氏は「データは使ってみないと価値が理解されません。そのため、まずは価値を提供することにしました」と話す。
アプリを通じて「データの力はすごい」と一定の評価は得ながら、今もまだデータの充実と整備にも取り組んでいる。たとえば、地方自治体のオープンデータには統一性がなく、そのままでは使えないものも少なくない。そこで遠山氏は新潟県のオープンデータをSnowflakeのマーケットプレイス上でも提供するようにした。
「データは串刺しで使うことで、より多くの気づきを与えてくれます。当初はデータを出すことに抵抗感を示す人もいましたが、データは外に出すことでこそ価値が高まります」(遠山氏)
そして、データ利活用のステージにおける課題となるのがアイデア創出だ。データがあったとしても、アイデアがなければ価値は生まれない。そこでハッカソンに近いイベントを開催したこともある。Snowflakeのマーケットプレイスで提供している新潟県三条市のオープンデータを活用して何ができるか、アイデアを出し合った。
たとえば、観光地データを活用して観光ルートをTableauで表示するというアイデア。オープンデータには公衆トイレの情報もあり(和式か洋式の区別まで)、観光地のデータと組み合わせたらどうかなど、データ活用の議論につなげた。こうした取り組みから「データでやれることのイメージがつかめてきた人が増えてきています」と遠山氏は言う。まだ“地域のDX”として見れば入口にあたるかもしれないが、着実にデータ活用に向けて歩みを始めている。
構想から実装まで短期間で進められるSnowflakeは心強い存在
今回「Data for Good」を受賞したことをうけ、遠山氏は「驚いたというのが正直なところです」と切り出す。Snowflakeについては「スムーズに環境を作れることが素晴らしい。今回も着手から公開まで3~4ヵ月です」と迅速なリリースに貢献した点を強調する。
「データの民主化や経済活性化を進めていくためには、新潟に限らず東京も含めて、いろいろな事業データを使うことが必要であり、そうすることで成長が生まれていきます。そしてアイデアが浮かんだとき、短期間で実装できる環境があるとデータ活用は進んでいくと思います」(遠山氏)
新潟での取り組みを通じて遠山氏は「データに対する地方の考え方はまだ弱く、ここを変えることが難しいと実感しました」と話す。しかし、地域の安全や地域で必要とされる情報は何かと考えていくことで、スマートシティのような世界に少しずつ近づいていく。最後に遠山氏は「地域データを活用した街作りをしたく、Snowflakeやこれから登場するテクノロジーでデータを使えば実現していけると思います。ぜひ、みんなで取り組んでいきたいです」と意気込みを見せる。
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