ガートナージャパン(以下、Gartner)は、ガートナー データ&アナリティクス サミットのオープニング基調講演において、データとアナリティクス(D&A)のリーダーが、目的を果たせるよう組織をリードし、信頼関係を築き、インパクトをもたらすための指針を発表した。
最新のGartner CDAOサーベイによると、D&Aの取り組みの成功を阻む要因の上位は、スキルや人材の不足、ビジネス・ステークホルダーの関与不足、変化の受容という文化的な課題、データ・リテラシーの低さなど、「人」に関連するものが挙げられている。テクノロジーも必要だが、それだけでは阻害要因を排除できないという。
ディスティングイッシュトバイスプレジデントアナリストのリタ・サラム(Rita Sallam)氏は、次のように述べている。
「多くのビジネス・ステークホルダーとD&Aリーダーは、お互いを十分に理解できていません。こうした隔たりのある関係性もまた、D&Aの推進を阻害する要因になり得ます。D&Aリーダーは、目的をもって組織をリードし、ステークホルダーの目的を理解し、自分の目的を共有し、それらを結びつけて組織のミッション・クリティカルな優先事項に取り組む必要があります。それには、組織全体、D&Aチーム、D&Aリーダー自身の3つのレベルで焦点を当てて取り組むことが重要です」
組織全体:ビジネスの言葉でD&Aのバリュー・ストーリーを語り影響力を高める
過去2年にわたるCDAOサーベイの結果からは、D&Aリーダーの3分の2は、依然として測定可能な投資収益率(ROI)の説明に苦労していることが明らかになっている。
サラム氏は次のように述べている。
「D&Aリーダーは、D&Aが提供するビジネス価値を伝えるために、新しいアプローチを用いるべきです。短期的および長期的な財務的価値を示す先行指標を定義して、D&Aの技術的な成果をビジネスの成果へと明確に結びつけ、ビジネスの言葉に翻訳して説明するのです」
D&Aの価値を示すには、次に示す3つのステップすべてに対応できるようなバリュー・ストーリー(ビジネス価値のストーリー)を構築して語ることが重要だという。
- D&A戦略と、組織のミッション・クリティカルな優先事項とを結び付ける
- ステークホルダーそれぞれで異なる価値に合わせたストーリーを構築し、ビジネスの言葉で説明する
- 短期的なROIだけでなく、長期的な目標への貢献を把握するために、財務的な価値と影響の両方を特定し測定する。プロジェクトが終わった後も測定を続けて、D&Aへの投資がもたらす長期的な影響を見逃さないようにする
D&Aチーム:D&Aの人材戦略に基づいて、目的意識を共有できる人材の育成に取り組む
組織全体にD&Aの影響をもたらすには、優れたチームの構築が不可欠であり、それには人材戦略が重要。人材戦略には、「採用・定着・育成」の3つの柱があるが、人材の定着と育成から取り組みを進める。D&A人材を育成して定着させるには、従業員価値提案(EVP)を見直し、チームとして集団で働く意義や目的を見出すことも必要だという。
D&Aに携わる人々は、大量の情報から洞察を得て、世界を理解したいという強い動機をもっている。D&Aの専門家だけでなく、他の部門の人材も含め、分析的思考を有する人々を惹きつけるために、新たな世界を知りたい、経験をしたいなどといった、内発的な動機を実現する機会の提供を検討すべきだとしている。
データ・ドリブンな組織文化を広める施策の一つとして、各部門にD&Aのフランチャイズを展開することが挙げられる。フランチャイズ展開を始めるのに適切なスキルと影響力を有する部門を選び、活動を体系化して横展開の準備を進め、一定の成果が出たら他の部門でもそれを再現していく。一般的なフランチャイズ展開と同様に、最初は1つの部門から始め、徐々に拡大することにより、組織全体のD&Aスキル向上や部門間における理解の促進につなげるのだという。
D&Aリーダー自身:社会性を重視するリーダーを目指す
最新のCDAOサーベイでは、自身の専門的な能力開発に取り組んでいると回答した最高データ/アナリティクス責任者(CDAO)の割合は30%だった(日本に限ると32%)。一方で、変化の受容という文化的な課題とデータ・リテラシーの低さは、D&Aの取り組みを阻害する要因として、毎年上位に挙げられている。
バイスプレジデントアナリストのガレス・ハーシェル(Gareth Hershel)氏は、次のように述べている。
「組織文化を変えるには、人々のマインドを変えることが重要な鍵となりますが、それは一度に広範囲で起こせるのではなく、少しずつ一人ずつに起こるものなのです。D&Aリーダーは組織文化を変える火付け役となり、良いアイデア、良い人間関係、そして個人として影響力を持つことが重要です」
D&Aリーダーが目指すべきモデルとして、Gartnerは、社会性を重視するリーダーを挙げている。社会性を重視するリーダーは、頭で理解し、心で感じて、行動するバランスが取れているとのこと。
D&Aリーダーは、知性を使って、合理的に理解をし、計画的に、データに基づき、組織の優先事項の解決につながるビジネス成果を実現できる。また、他人と協力し、所属し、認められたいという本質的な動機に訴えかけることも必要だという。
加えて、過ちを素直に認めることができる、責任を負う、他人を信頼し任せることができる、自分の限界を認め、助けを求めることができる資質も重要だとしている。
同社サーベイの結果でも、自分の強みだけでなく、限界を認めることができる、弱さを認めて受け入れることができるD&Aリーダーは、そうでないリーダーに比べて高い成果を出していることが明らかになっているという。
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