はじめに
2009年7月24日、東京証券会館にて「システム管理者感謝の日」が開催された。このイベントは株式会社ビーエスピーが呼びかけとなり、日頃から企業のシステム管理の現場で安定稼働に努力しているシステム管理者の労をねぎらうことと、その仕事の意義を広く社会に伝えようという目的で始められ、今回が3回目となる。
はじめに仕掛け人である、ビーエスピー社長の竹藤浩樹氏より開会の挨拶が行われ、続いて、「システム管理者技術者の仕事―オープンシステムからクラウドへ」と題し、産業技術大学院大学教授、南波幸雄氏による基調講演が行われた。
南波教授は、元マネックス証券CIOとしてシステム管理の現場を経験し、社会人大学の教授になったユニークな経歴の持ち主。企業人と研究者という2つの経験を踏まえた南波教授の話は、システム管理に携わる人間にとって非常に示唆に富むものとなった。
ソニーからマネックス証券CIOへの転進
南波氏はもともとは化学工学が専門。ソニー時代、磁気テープの研究開発などから製造技術までを手がけていたという。ひょんなことからユーザー側メンバーとして生産管理システムプロジェクトに参画したことが、ITシステム関連への転機だった。90年代には全社のネットワークや新技術の導入を担当したが、90年代後半の「eビジネス」の台頭とともにeビジネスシステムに興味を持ち、2000年にマネックス証券に転籍した。
「(セミナーが開催されている)ここ証券会館は、システム上の問題で何度か『説明』に来た(呼びつけられた)懐かしい思い出の場所です(笑)。マネックスはインターネット証券なので、ITがビジネスを大きく支えている世界。その中でミッションクリティカルなシステムを、どのように止めないで運用するかが最大の課題でした」と語る。
「ソニーの時代は、90年代後半のメインフレームからオープンシステムへの転換で、それまでと違いシステム運用の比重が高くなりました。その頃、名古屋にあったデータセンターが老朽化したため、ニューヨークのマンハッタンにデータセンターを移転しました。マンハッタンは岩盤の上なので、耐震性に関しては理想的な場所だが、ハリケーンが来て通信がダウンするという思いもかけない障害を経験しました。」
さまざまな技術の検証を経て、情報技術の連携基盤をどう作るかという課題に向き合ったという。「連携基盤と言うと、EAIやESBという概念がありますが、結局のところそうした技術は、データモデルの一致を前提とした情報をやりとりするのだが、まともに意味のある情報をつなごうとすると、データに加えて「運用連携」ということを考えなければなりません」と南波氏は語る。
そして、マネックス証券時代にどっぷりと運用管理の世界に浸った経験から、貴重な運用管理のポイントを紹介した。
「オンライン証券は、1日の中でも負荷の変動が非常に大きい。証券取引所で取引が開始されると急激な負荷の増大が始まり、9時15分ぐらいがピーク。30分ぐらいになると下がってくる。その後横ばいが続き、後場が始まるとまた上がり、その後また下がり、大引け前に上がるというパターン。ピークと平均時の比率差はかなり大きい。特殊な負荷のパターンの世界です。」
2000年の2月、3連休の前日の14時35分にシステムダウンに遭遇。当初は原因が全然分からず。アウトソーシング先のシステム管理者やインフラ技術者と3日間徹夜で原因の解明と修復に携わった。その時のシステム管理者やインフラ技術者との一体感から得たものが、その後の南波氏の運用に対する考え方に活かされているという。