ネットワークだけでない、Ciscoによる4つのプラットフォーム戦略
Ciscoは、2023年4月にCisco Security Cloudをベースとする「Cisco XDR」を発表、6月に米国で開催した「Cisco Live! 2023」では、SSE(Security Service Edge)の「Cisco Secure Access」を発表した。
2023年6月4日から8日間にわたりラスベガスで開催された同社主催イベント「Cisco Live!」で、セキュリティおよびコラボレーション事業担当エグゼクティブバイスプレジデント 兼ゼネラル マネージャーを務めるJeetu Patel氏に、AIやセキュリティに関する同社の戦略を聞いた。
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──Ciscoはセキュリティへ注力していますね。まずは、貴社のセキュリティに関する戦略について聞かせてください。
もはや人手だけでセキュリティに対処することは不可能です。AIなどを活用することで、より対応力を拡充させなければいけません。そうなると、(AIに利用できる)大規模なデータをもつCiscoのような企業が有効性の高いソリューションを構築できる立場にあるといえます。
当社は2022年に「Cisco Security Cloud」を発表しました。セキュリティのプラットフォームとなるもので「有効性」「体験」「経済性」の3つにフォーカスしています。
現在、セキュリティベンダーは約3,500社あると言われていますが、この中でセキュリティのためのプラットフォームを提供できる企業は6社ほどです。その中の1社がCiscoであり、当社では複数のコントロールポイントにまたがったテレメトリデータを収集し、各データの相関関係を特徴づけることができます。また、APIも公開しているため、サードパーティー企業も我々のプラットフォーム上で新たな価値を生み出せるでしょう。こうした高いレベルでのセキュリティプラットフォームを実現している企業は、ほんの一握りです。
なお、セキュリティ市場のTAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)は2025年には800億ドルとも言われる巨大なものです。Ciscoのセキュリティ市場での売り上げは40億ドル程度であり、まだまだ成長できると見ています。
──イベントではネットワーク管理のプラットフォーム「Cisco Networking Cloud」、オブザーバビリティの「Cisco Full-Stuck Observability」を発表しました。Ciscoはどこに向かっているのか、方向性について教えてください。
Ciscoは現在、4つのプラットフォームをもっています。ネットワーキング(「Cisco Networking Cloud」)、セキュリティ(「Cisco Security Cloud」)、オブザーバビリティ(「Cisco Full-Stuck Observability」)、コラボレーション(「Cisco WebEx」)です。どのプラットフォームも疎結合でありながら緊密に統合されており、単体ではもちろん複合的にも機能し、4つのプラットフォームで統一することで、より価値を発揮するように構築しています。
もちろん、Ciscoはネットワークでスタートしていることもあり、現在もネットワークは重要です。世界にはまだ30億人が容易にインターネットにアクセスできない状況があり、同市場のTAMはまだまだ拡大しています。
ネットワークをはじめ「コネクティビティ」をビジネスにするということは、セキュリティのような「保護」のビジネスをすることでもあります。コネクティビティと保護を両立するためには、可視化と観測──つまり「オブザーバビリティ」が必要になるのです。オブザーバビリティにより、何らかの問題が発生したときに迅速に確認でき、適切な対策を講じることができるでしょう。そこで、ネットワーク監視技術である「ThousandEyes」をCisco全体のスタックに統合するという作業を進めてきました。
実は5年ほど前、Cisco内の技術革新のスピードが減速した時期があります。それにより成長率も鈍化しました。そこから技術革新のスピードを加速させ、今回のCisco Live!では、過去10回分の規模となる発表ができました。
Ciscoはユーザーに愛される製品作りを大切にしており、口コミで評価が高まっていくような素晴らしい製品となるよう、ユーザー体験を含めて細部までこだわっています。そのために、これまではバラバラだった事業を統合するプラットフォーム、各製品ポートフォリオによるアプローチを進めています。また、技術だけでなく購入プロセスも簡素化し、顧客が簡単に機能追加できるようにもしています。
さらにローカライズも重要な取り組みの一つです。グローバルで最大限にサービス提供するためには、各国地域に則した形での提供が必要であり、言語対応だけでなく現地政府や業界関係者との関係も深めています。
──WebExなどのオンライン会議ツールはコロナ禍で需要が高まりました。収束後、働き方はどのように変化していくと見ていますか。
現在、働き方は第3のフェイズに入ったといえます。コロナ前のオフィスにきて仕事をする働き方が第1フェイズ、コロナ禍のリモートワークが第2フェイズ、そして第3フェイズはハイブリッド(ミックス)です。物理的に一緒にいる人、離れている人が、距離を障害と感じることなく一緒に働く。Cisco Live!の来場者は2万人近くでしたが、オンラインでの視聴は100万人とイベントもハイブリッドが当たり前となりました。我々は来場者だけに向けてスピーチをするのではなく、オンラインで見ている人にも伝える、そういう時代です。
そこでCiscoは、WebExでハイブリッドに焦点を当てています。ハイブリッドの文脈で優れた体験、没入感を提供することで、リモートだから取り残されたと感じることはなくなります。一方、現実を見るとオフィス設計は全員出社を前提としたものであり、リモートにいる社員が、出社している社員と一緒にミーティングをしたりコラボレーションしたりするための機器が揃っていません。こうした部分はこれから整備されていくと見ています。
たとえば、Cisco Live!では生成AIを使ってミーティングの議事録をとれる機能を発表しました。このような機能を拡充していくことで、メンバーが全員物理的に揃っているときにでもWebExを起動することになるでしょう。会議中に自分でメモをとるのではなく、WebExにやってもらう。参加者は会議の内容により集中できるでしょう。