情報漏えいの“先進国”だった韓国が経験し、活かした教訓
日本企業による個人情報漏えいの大規模インシデントは後を絶たない。2023年10月には、大手通信事業者の子会社で、元派遣社員が約900万件もの個人情報を不正に持ち出して第三者に提供していたことが判明した。近年はランサムウェアをはじめとするサイバー攻撃の被害が大きく取りざたされることが多いが、この事件のような内部犯による個人情報漏えいインシデントも相変わらず頻繁に発生している。
振り返れば2015年に発生した日本年金機構の情報漏えいインシデント以降、個人情報保護法をはじめとする各種法令の規制が強化され、各企業・団体とも対策に力を入れてきた。それにもかかわらず、大規模な情報漏えいのニュースは相変わらず頻繁に報じられている。
こうした事態を受けて、企業はどのような対策を講じるべきなのか。これを考える上で大いに参考になりそうなのが、韓国の事例である。韓国は、日本より一足先に国民ID制度の導入や社会のデジタル化を大胆に進め、大きな成果を上げてきた。一方、その副作用として数々の大規模な個人情報漏えい事故を経験してきた「課題先進国」でもあったからだ。
そんな韓国において、独自の暗号化技術を持つセキュリティベンダーとして広く知られるペンタセキュリティのイ・スミン氏は、近年の日本におけるサイバーセキュリティの状況について次のような見解を述べる。
「これからDXの取り組みがますます本格化する日本において、データの重要性は一層高まっていきます。また、AI技術が広く普及していくにつれ、その学習リソースとしてのデータの価値も高まってくるでしょう。それにともない、残念ながらデータを窃取するような犯罪も増えてくることが予想されるため、データ保護の取り組みにはこれまで以上に力を入れていく必要があります」(イ氏)
前述したように韓国では、日本より一足先に大規模な個人情報漏えい事故が相次いで発生し、大きな混乱が生じた歴史を持つ。それらの経験を活かし、現在では企業や政府機関のデータ保護の取り組みに対して、国民の厳しい監視の目が注がれるようになっているという。
「韓国は1960年代に国民ID制度『住民登録番号』を導入しましたが、これを情報システムに取り入れる際、セキュリティ設計への配慮が不十分だったため、大規模な個人情報漏えい事故が相次いで発生しました。その反省から現在では、国民が自らの住民登録番号を預ける企業や政府機関に対して厳格なデータ保護を要求しており、万が一情報が漏えいした際には極めて厳しい罰則が科せられるようになっています」(イ氏)