「クラウドERP」導入の分水嶺は“バブル崩壊”
2012年の設立以降、金融領域でのサービス提供を続けてきたマネーフォワード。同社では、SaaSによるコンポーネント型ERPとして「マネーフォワード クラウドERP」を提供している。今、同プロダクト領域を牽引しているのが、ワークスアプリケーションズ社で大手企業向けのERPパッケージシステムを立ち上げた廣原亜樹氏だ。
一般的に、提供形態に関係なくERPパッケージは企業規模でターゲットを分けていることが多い中、廣原氏は「クラウドERPでは企業規模でなく、『成長企業』『成熟企業』に分けて考えるべき」と指摘する。企業の売上高でも社員数でもない、この成長企業とは、主にバブル崩壊後の1990年代以降に生まれた“若い”企業を指す。いわゆる日本の伝統的企業とは異なり、昔ながらの習慣やしがらみに縛られない慣行が特徴だ。そして、その対極に位置するのが成熟企業となる。
平たく言えば、成長企業であればクラウドERPを導入しやすく、成熟企業だと難しい。ERPを導入する際に重厚長大なカスタマイズを加える成熟企業は今、膨大な手間とコストをかけたカスタマイズが重荷となり、バージョンアップですら一苦労の状況だ。クラウドERPへの移行は言わずもがなである。
SAPやOracleなどからしても、複雑にカスタマイズしなければERPパッケージが使えない日本企業は謎に満ちているかもしれない。「日本はわがままだという意見もありますが、そうではない」と廣原氏。マインドではなく、長年培われてきた企業文化や商習慣にこそ原因があり、その根底にある“終身雇用”に深く根差した問題だという。
日本は長らく終身雇用を前提とした社会だった。入社したら60歳の誕生日に退職するまで、ずっと同じ会社で勤めあげる。それを支えるための多岐にわたる福利厚生制度や職位が企業独自に発展していき、それらが給与計算などの“複雑さ”と化す。バブル崩壊以降に生まれた企業には、そうした複雑さは少ない。
もう1つ、ERP導入のハードルとなるのが「締め請求」の慣行だと廣原氏は指摘する。単に月次で合算請求するのではなく、月次で締めた後に個社ごとの事情から調整が入るからだ。加えて、月次で締めた段階では売り上げや支払いが確定せず、業績が先送りされる問題も生じるだろう。こうした商習慣がある限り、ERPには複雑なカスタマイズが必要になる。裏返せば、クラウドERPの導入障壁はかなり高くなるということだ。
それ故にグローバルスタンダードなクラウドERPが導入できるのは、前挙した慣行に縛られない企業であり、それを廣原氏は“成長企業”と区別している。
また、成長企業かどうかを判断するとき、決して規模や歴史だけでは測れない点も忘れてはいけない。創業したての小規模な企業でも、大手企業の子会社として慣行をそのまま引き継いでいるケースもある。クラウドERPが導入できるか否か、その境目は規模でも売り上げでもなく、どれだけ会計に係る制度がシンプルなのかだ。