SaaS乱立による混乱、今こそ「オールインワンのERP」となるか
「ERPの市場は時代とともに変化していますが、大手企業を中心にSAPが強い存在感を示しており、多くの企業が『SAP S/4 HANA』に移行しています。また、中堅・中小企業向けのパッケージ製品もクラウドへとシフトしています。その一方、中堅企業向けクラウド型ERPの市場はベンダー各社が製品を作りきれておらず、まだまだ進出の余地があると考えています」と語るのは山田誠氏。1998年から国産ERPソフトウェアベンダーで従事し、プリセールス、マーケティング、商品企画、製品開発を歴任してきた人物だ。
クラウドシフトによってエンドユーザーの要望や状況も変化しており、以前は情報システム部門のグランドデザインを描ける担当者が、自社の事情にあわせた設計と製品選定を行っていた。しかし、SaaSが浸透している今では、現場担当者が自身で製品を選ぶようになっている。この状況について山田氏は、「情報システム部門が統制できなくなり、データ連携やマスタ統合という観点では混乱状態にあると言えるでしょう。SaaSベンダーは『APIを用意している』と言いますが、“誰が、何を、どう連携するのか”という問題が棚上げされがちです。このように全体的な統合が難しくなっている状況下、再び『オールインワンの時代』が訪れます」と指摘した。
たとえば、グループ企業全体でのシステムデザインが困難だったり、導くべきCIOが育っていなかったりと課題は山積している。そうした状況下、特に中堅企業にはオールインワンのクラウド型ERPこそ有効だとするのが山田氏の見立てだ。テラスカイが「mitoco ERP」の構想を打ち出したのは2023年の頃、これはSalesforceプラットフォーム上で営業の商談から受注、見積、売上、販売管理、請求書、入金、経理処理までを一気通貫でオールインワンにサポートするというもの。山田氏がテラスカイに入社した後に本格的な社内検討が動き出したという。
「Salesforceといえば営業支援やCRMが目立ちますが、プラットフォームの柔軟性を活かして自由にアプリケーションを構築・連携できる点が重要です。実際にテラスカイでは、カレンダーやワークフロー、勤怠、経費精算などの機能をもつ『mitoco/mitoco Work』をSalesforce AppExchangeで提供しています。また、2022年には富士通が提供していたクラウド型の販売管理/在庫管理システム『Fujitsu GLOVIA OM』の国内独占販売契約を締結し、2023年には会計システムやデータ連携サービスも追加しました。こうしてSalesforce上に追加してきた機能群を『mitoco ERP』と呼んでいるのです」
なお、データ連携サービス「mitoco X」は、セゾンテクノロジーの「DataSpider Cloud」事業を継承したものだ。SalesforceとのAPI連携では「MuleSoft」を想起する方も多いかもしれないが、主に大手企業向けとして利用されているため、市場での住み分けができているという。