「データインテグリティ」の担保はIT部門が主導
非財務情報管理が則るべき法制度や外部要請は、一意ではないとはいえ、正確性やガバナンスの担保を重視した「データインテグリティ」を課題視する企業は多い。そのような企業群の中で、特にグループ企業内の情報流に注目し、同じ収集過程を経るデータを同一ツール内で、同一の承認フローを経て収集するように変革を進めている先行事例がある。
たとえば、J-SOX関連の文書や評価結果なども、グループ各社・各組織にて対応を進め、組織内での適切な承認を経て、本社特定部門へ情報を提出するという流れを経ている。これは非財務情報のうち、所定の外部評価に関するデータなどと同じ道筋を通っているともいえる。このように該当する情報を抽出し、データ定義ならびに承認・提出用のワークフローを定義し、情報流の一元管理を実現するだけでなく、ユーザーから見れば統合ポータル上での情報提供を実現するというものだ。
このような先行事例は、IT部門主導で企画、推進されている場合が多い。やはりグループ横断での情報管理方針に基づくワークフローを設計し展開するという点では、非財務情報管理を取り巻く実務部隊の要望だけでは実現しづらいのが実態であり、IT部門ならではの見地と横串しでの案件推進力があってこその事例ではないだろうか。
また、管理対象とする非財務情報の指定や参照規制の取捨選択などにおいて、IT部門も深く意思決定に関わることが多いのも特徴だ。非財務情報を取り巻く環境は複雑ではあるものの、「情報流の整備」という観点から全社的な最適解を導出すべく、IT部門の積極的な関与が求められている。
これら先行事例企業では、あくまで非財務情報管理の第一歩として、正確性やガバナンス担保を重視し、既存の情報収集フローからテコ入れをスタートしている。そのため、この後続として、レポーティングの自動化やデータ活用、企業価値向上を実現するための基盤強化など、より広範な取り組みに深化させようとしている企業が多いのも特徴だ。
企業価値向上に寄与する、管理対象とすべきデータの特定
多種多様な非財務情報すべてを対象に取り組みを進めるのではなく、まずは自社の企業価値向上に寄与している「管理すべき非財務情報の種別とその粒度はどうあるべきか?」を特定するところから、取り組みを進める先行事例もある。
これまでも触れてきた通り、非財務情報と一口に言っても実に多種多様なデータが対象となる。そのうち、どのようなデータの変動が企業価値を押し上げているのかが明確になれば、そのデータこそ管理対象にすべきという考えだ。
これら事例では、まずは現状マニュアルで収集管理している手元の非財務情報や、各組織で特段活用されないままデータ化されているような情報をリストアップし、様々なデータ分析から、「どの非財務情報が変動することで、どのような価値連鎖を発生させ、最終的に事業KAI(重要行動指標)、財務KPI(重要業績指標)の向上に寄与しているのか?」の検証を進めている。過去数年分の経年データなどの収集により、これらのデータ検証が一定可能となるためだ。この価値連鎖の検証結果を俯瞰してみることで、以下のようなデータが検出できる。
- 価値連鎖の検証にも至らない「データ化されていない情報」「データが収集できない情報」はどこか=データ定義から取り組みを進める部分
- 価値連鎖を途切れさせている箇所はどこか=管理対象データの変更を検討する部分
- 多くの価値連鎖の中枢となる箇所はどこか=より厳密にデータの正確性と細分化(詳細化)を実現し、高頻度でモニタリング対象にする部分
まずは手元でこのような検証を繰り返し進め、管理対象データと管理の仕組みを定めていく。
この検証そのものを社内で効率的に進められるよう、検証ツールの整備を進める事例もある。その場合も、IT部門が率先してデータ検証などを進める場合があるが、一方でより具体的な事業KAI、財務KPIを見据えた全社の価値連鎖を描く必要がある。そのため、投資家などの市場動向を把握している経営企画部門とIR部門との共同推進になることがほとんどと言える。
また、検証結果そのものを対外開示に用いることや、社内の経営管理指標の再考の一助になることもあり、IT部門以外でも足元の成果を得つつ取り組みを進めることができるのも特徴だ。非財務情報という幅広のテーマを取り扱うことにより、経営層や他部門との連携なども柔軟に取り入れながら推進することが重要だ。