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マイナビがヘルプデスク対応を年間35%自動化した軌跡:アプリで実現する“問い合わせ民主化”の成果とは

1万人以上のユーザーに8人体制で挑む! 現場課題を“全社課題”に昇格

 マイナビでは、急速な事業拡大による社員数の増加、社用ITデバイスや働き方の多様化などにともない、社員のITデバイス・社内システム利用をサポートするヘルプデスク業務が飽和状態に達していた。同社は「社員の業務を止めず、速やかに問題解決に導く」ことを目指し、ビジュアルIVR(自動音声を可視化したシステム)やRPAなどを活用してヘルプデスク業務を再構築。問い合わせ導線も整理したことで、多くの社員がヘルプデスクの助けを借りずに自己解決できるようになり、有人対応が必要な問い合わせを35%も自動化させた。同社はいかにしてデジタルを駆使したヘルプデスク最適化を進めたのか、プロジェクトのキーパーソンが語った。

1万人以上のユーザーを8人で対応? 社内ヘルプデスクの課題

 「一人ひとりの可能性と向き合い、未来が見える世界をつくる。」を企業パーパスに掲げ、就職・転職・進学などの人材サービスやメディア運営などの事業を展開しているマイナビ。同社は2022年、社内の各事業部に散在していたITおよびWebマーケティング関連の組織や人材を集約し、新たに“Drive Digital Innovation (デジタル・イノベーションの推進)” をミッションとする「デジタルテクノロジー戦略本部」を設立した。システムとデータ、人材の全社最適を図りながらデジタル施策を推進し、イノベーションをより加速していくことが目的であり、現在、同本部では様々なデジタル施策が進められている。

 その一つとして行ったのが、社員が業務で利用するITデバイスや社内システムに関するユーザーサポートを強化する「ヘルプデスク最適化プロジェクト」だ。同プロジェクト推進の狙いについて、デジタルテクノロジー戦略本部 ITデバイス・サポート部 部長の北島百合氏は次のように説明する。

 「近年はヘルプデスクへの問い合わせ件数が大きく増え、内容も複雑化しています。対応人数を強化しているものの問題解決までに社員(以下、ユーザー)を待たせ、業務を止めてしまうことが大きな課題でした。そこで、ITツールを活用してヘルプデスク業務の見直しを図り、この課題を解決していくためにプロジェクトを始動しました」(北島氏)

株式会社マイナビ デジタルテクノロジー戦略本部 ITデバイス・サポート部 部長 北島百合氏

 マイナビでは、近年の事業拡大により社員数が大幅に増加しており、2024年12月時点ではグループ全体で約1万5000人を抱えている。ITデバイス・サポート部は、マイナビグループの中でも主に本社およびグループ会社の一部をサポート対象としており、その数は1万人を超える。また、社員に支給する社用のITデバイスも、Windows端末のほかにiPhoneやMacなど多様化してきているという。

 このような状況から、ITデバイス・サポート部の下に属するユーザサポート課が担当するヘルプデスクへの問い合わせは急増。その内容も複雑化していた。また、コロナ禍に時差勤務や在宅ワークが制度化されたことで、定時外にヘルプデスクの支援を必要とする社員が増えるなど、問い合わせを受ける時間帯のニーズも多様化している。

 こうした問い合わせに対応すべく、ユーザサポート課ではヘルプデスクを8人で運営し、1日60~70件の電話による問い合わせに応えていた。しかし、電話では担当者が1件ずつ対応するためユーザーを待たせることが多く、電話に出られない放棄呼も少なくなかったという。

 なお、マイナビでは最も件数が多く、緊急度の高いPCへのログインに関する問い合わせについては、社外にヘルプデスク業務を委託して24時間365日で対応している。社内ヘルプデスクが担当する領域は、「社内サイトやファイルサーバにアクセスできない」「画面が突然固まった」などのシステムやデバイスに関する質問が主だが、実際には同課で管轄していないシステムの問い合わせも多く寄せられるとユーザサポート課の清柚香子氏は話す。

 「『誰に聞けばよいかわからないから、とりあえずヘルプデスクに聞こう』と電話するユーザーが多いようです。その場合も、私たちでわかる部分は回答し、わからない場合は誰に聞けばよいかを調べて答えるようにしているため、対応に多くの時間がかかります」(清氏)

 このような状況から、ユーザサポート課では、本来時間を割くべきサポート業務の改善の検討などに十分な時間を確保できない状況が生じていたのだ。

全社員に支給しているiPhoneを問い合わせツールに

 これらの課題を背景とするヘルプデスク最適化プロジェクトでは、問い合わせを行うユーザーと、それを受けるユーザサポート課それぞれの視点でゴールを定めた。

 まずユーザーに関しては、サービス向上として待ち時間短縮と対応時間の拡大、さらに問い合わせをしなくても自己解決できる手段を提供すること。一方、ユーザサポート課については、処理能力の向上と業務効率化が課題であった。そこで、増加する問い合わせ件数への対応力と対応品質の向上、本来注力すべき仕事に充てる時間の確保を目的に、ITツールを活用したサポート導線の整理といつでも問い合わせ対応ができる体制の整備、サポート対応の自動化を目指すこととした。

 ユーザーに対するサービス向上の観点でまず行ったことは、サービス利用端末の選定だ。満足度向上と負担軽減の観点から「使いやすさ」を重視し、全社で標準支給しているiPhoneで問い合わせができる仕組みを構築することにした。

 また、マイナビでは従来から電話で問い合わせをするユーザー向けにIVR(自動音声応答システム)を運用していたが、社内外に多くの問い合わせ先があり、正しい窓口にたどり着けないユーザーが多かった。そこで、ユーザーからの問い合わせ導線を可視化。適切な窓口に確実に誘導するためにビジュアルIVRアプリを新たに開発し、それをiPhoneで提供することを決めたという。iPhoneのビジュアルIVRアプリならば、多くのユーザーにとって使いやすく、PCにログインできない場合でも利用できるといった利点もある。

次のページ
ビジュアルIVRとRPAで問い合わせを“民主化”

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この記事の著者

名須川 竜太(ナスカワ リュウタ)

編集者・ライター
編集プロダクションを経て、1997年にIDGジャパン入社。Java開発専門誌「月刊JavaWorld」の編集長を務めた後、2005年に「ITアーキテクト」を創刊。システム開発の上流工程やアーキテクチャ設計を担う技術者への情報提供に努める。2009年に「CIO Magazine」編集長に就...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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