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“冗談”から生まれた世界初の体操AI採点システム 開発を経て見出した「肝」のデジタル化の重要性とは

新たに開発を進める「能楽×AI」 富士通が見据える“伝統芸能の高度化”の実態を訊く

体操の次は伝統芸能を“高度化” いったいなぜ?

 「AIで人の動きを解析することにより、スポーツにおける誤審防止以外にも健康寿命の延伸や少子高齢化にともなう労働寿命、伝統継承問題への対応といった社会課題解決にインパクトをもたらすことができると思う」と藤原氏は語る。たとえば、富士通はパートナー企業と、ピラティスやヨガの動きなどを測定するシステムを開発。医療機関と認知症予防の早期発見に向けた社会実装にも取り組んでいる。そして、伝統文化の継承という観点で「能楽」にも着目した。

 「能楽の舞は、体操と非常に近しい部分があります。いずれも美しさを追求しており、体操は『日本のお家芸』と言われますが、能楽は言うまでもなく『日本の伝統芸能』です。それにもかかわらず、両者とも素人が見たら魅力が伝わりにくい部分がある。また、能楽は少子高齢化にともなう継承者不足問題もあります。そこで、JSSで培った『人の動きのデジタル化技術』を活用し、課題解決にあたれないかと考えたのです」(藤原氏)

 能楽などの伝統芸能や、いわゆる「職人」の世界は、熟練に多大な時間を要するとされる。そこで、AIなどのテクノロジーを用いて、人間の身体能力や技術習得能力の向上(人間拡張)を促進し、能楽の世界をより高度に、そして持続可能なものにできないかと考えたのだという。

 その一歩目として、能楽師の観世喜正氏の所作と舞をデータ化。先述したようにCEATECでは、そのデータと自身の動きを比較しながら、能楽の表現や技術の指導を受けられるコンテンツが展示された。今は技術展示レベルの段階だが、ゆくゆくは様々な動きをアーカイブすることで、能楽師と一緒に練習し、かつ特定の能楽師が持つ個性を学びやすくするような世界を思い描いていると藤原氏は語る。

CEATECでの体験の様子

 とはいえ、能楽は伝統的なコンテンツ。体操と比較して、テクノロジーをもちこむことに反対の声はなかったのか。この点について藤原氏は、“ストーリー”と“周囲の共感”が大切だと話す。

 「実は体操のAI採点も、最初は一部の人だけが賛成している状況だった」と同氏は明かす。しかし、採点をデジタル化することで誤審を防ぎ、視聴者にもわかりやすい解説ができるためファンが増える、その結果、体操人口も増えて体操界全体が盛り上がっていくというストーリーを描いて共感を得ることで、徐々に賛同者を増やしていった。能楽も同様、後継者の育成やファンの拡大などを通して、文化が継承される未来を共有しながら取り組みを行っているのだという。

 「もちろん、AI技術に自信はあります。しかし、『良い技術がある』だけでは世の中を変えられません。たとえば、iPhoneには日本企業の部品が多く使われていますよね。ということは、日本からiPhoneが生まれる可能性もあったわけです。にもかかわらず、そうならなかった。これは、技術だけでは不十分であることを示しています。技術があるから何かを作るのではなく、まずは新たな世界観を作り、それを実現するために必要な技術を開発することが、今の日本企業に求められているのではないでしょうか」(藤原氏)

「肝」のデジタル化で、社会が変わる

 現在、藤原氏が最初に着手した体操という分野においては、世界大会などの採点だけでなく、「ラジオ体操」といった身近な領域への検討も始まっている。動きの正確さや大きさをAIに学習させ、たとえばラジオ体操第一であれば13の動きを採点できるようにすることで、教育現場に活用できないか検討しているとのことだ。

 「私もそうでしたが、ラジオ体操を適当にやる人も多いですよね(笑)。学校の先生に『ちゃんとやれ』と言われたときの『ちゃんと』を定義できるようにしたいです。自分の動きが点数化されて悪いところがわかれば、指導のクオリティも上がります。どこを改善すべきかがクリアになることで、身体に効果のある『ちゃんとした』ラジオ体操ができるようになるはずです」(藤原氏)

 また、「(デジタル変革を起こすためのポイントは)“肝”となる部分をデジタル化することだ」と同氏。たとえば、体操であれば、肝は「採点」にある。この肝をデジタル化したことで、採点そのものだけでなく、トレーニングやウェア開発、そしてテレビ中継などで様々なトランスフォーメーションが生まれた。その他の事例では、お金をデジタル化した電子マネーや、印鑑をデジタル化した電子署名なども、肝をデジタル化したことで利用用途が広がり、新たな価値を創出している。

 「私たちがAIで取り組んでいる『人の動き』は、スポーツや能楽だけでなく、人の日常生活すべてに関わるものです。今後、AIが私たちのバディとなり、よりよい体験を促してくれるような取り組みを増やしながら、社会全体をエンハンスしていきたいです」(藤原氏)

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この記事の著者

鬼頭 勇大(キトウ ユウダイ)

フリーライター・編集者。熱狂的カープファン。ビジネス系書籍編集、健保組合事務職、ビジネス系ウェブメディア副編集長を経て独立。飲食系から働き方、エンタープライズITまでビジネス全般にわたる幅広い領域の取材経験がある。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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