“マグロ市場”で生じていた「尾切り選別」の課題
マグロとAI。一見関連がなさそうなこの2つをかけ合わせ、世界初の新技術を開発したのが富士通とソノファイ、イシダテック、東海大学の4者だ。プロジェクト発足の経緯には、マグロ市場に蔓延る“とある課題”があった。
イシダテックの石田氏によると、マグロの漁獲量は直近の20年間で約25%増加。漁獲量の増加にともない、我々がマグロを食する機会が増えたことで、国際的に要求されるマグロの品質水準も高まっているのだという。
そんなマグロ市場では従来より、「尾切り選別」にまつわる課題があった。尾切り選別とは、主にサイズの大きいマグロの尾を切断し、中の身に脂がのっているか推測する方法のこと。具体的には、ランダムに抽出した冷凍マグロの尾部分を電動ノコギリで切断し、その尾を1つずつ並べて湯煎で解凍する。その後、専門家が断面図から目視で脂のりなどを評価するといった工程で進められる。

この工程では、いわゆる「長年の勘」に依存した技術が必要だったり、人手不足により収穫したすべてのマグロの尾切り選別ができなかったりといった課題が山積していた。また、東海大学の後藤慶一教授は尾切り選別について「従来の方法で行われる脂のりの判定が、必ずしも正確でないという問題がある」と語る。尾付近の状態のみを見て、そのマグロ全体の脂のりを判定することは難しい。断面を見て「脂がない」と判断したものでも、捌いてみると奥の身に脂がのっているケース、はたまたその反対の事象も起こりうる。
このような問題に対し富士通は、東海大学とともに「超音波解析AI」を活用した技術開発に着手。社会実装に向け、装置を水産業の現場に設置するためのアプローチを考えた際に、イシダテックと出会ったのだという。イシダテックは、静岡県焼津市に本拠地を置くメーカー企業。主に食品や医薬品向けの省力化機械をオーダーメイドで製造している。
同社はもともと、焼津漁業協同組合とともにAIを活用した冷凍カツオにおける選別業務の省力化に向けた取り組みなども行っていたとのことだ。そんな経緯も加味して、富士通とイシダテックは2024年4月に協業を開始。ソリューション提供に向け、イシダテックからカーブアウトする形で新会社ソノファイも同年12月に設立された。
開発は、富士通と東海大学、イシダテックの3社が共同開発した技術をソノファイが継承する形で進められた。富士通と東海大学が開発した研究試作機を経てイシダテックが商用試作機を製作。その後、ソノファイが本格的な顧客提供に向けた開発を進め、超音波解析AIを搭載した世界初の装置「ソノファイT-01」が完成した。
