生成AIが企業ITにもたらす衝撃と変革:30年に一度のインパクト
過去30年で最も衝撃的だったテクノロジーは何か?」──ITRの創業30周年を記念して行われたアンケート調査では、多くの回答者が「生成AI」を挙げた。ITRアナリストの舘野真人氏はこの結果について、「インターネットやスマートフォンを抑えて1位となったことは驚くべきこと」と述べる。
一方で、最近では生成AIに対する懸念も増えているという。具体的には最近の大規模言語モデル(LLM)の学習速度の低下や良質な学習データの枯渇、導入コストの問題、セキュリティリスクなどへの懸念の声があるという。これについて舘野氏は、「新しいテクノロジーは必ず『ショック期』と呼ばれる段階を迎えます」と指摘した。この「ショック期」は初期の熱狂的な「ハネムーン期」から現実的な課題に直面する段階への移行であり、どのテクノロジーでも避けられないプロセスだという。「重要なのは、この時期にネガティブな情報だけに振り回されることなく、冷静にプラスとマイナス両方の側面を分析しながら対応していくこと」と語る。
生成AIで非構造化データ活用、80%の宝をビジネスに活かす
では、生成AIの企業ITの視点からの意義とは何か。舘野氏は、特に重要なポイントとして「非構造化データが使えるようになる」ことの意義を強調する。
「企業内のデータベース化されているような構造化データは全体の20%程度。営業日報やメール、チャット履歴など非構造化データには膨大な情報資産があり、この80%を活用できれば、ビジネスチャンスにつながる」と舘野氏。製造業における設計データや作業指示書、小売業では顧客レビューや購入履歴などを活用することで、生産性向上だけでなく、新しい商品開発やサービス改善にもつながると言う。
しかしこうしたデータの活用には課題も存在する。「組織レベルで十分に管理されていない」非構造化データの取り扱い、事前学習済みモデルに内在する「バイアス」、そして動的コンテキスト理解に伴う「一貫性が損なわれやすい」という問題など、克服すべき壁は少なくないと指摘する。
生成AI導入を成功させるリーダーシップと必須スキル3選
続いて舘野氏は、生成AI導入を成功させるための企業リーダーに求められる能力について語り、「技術融合性を見極める視点」「最適なユースケースを発掘する力」「プロジェクトの投資妥当性を判断する力」の3つのスキルを挙げた。
まず1つ目の「技術融合性を見極める視点」について、新技術について「何ができるのか」「どう動くのか」「いくらかかるのか」といった具体的な質問が先行しがちだが、それ以前に「この技術が自社にどのような関連性を持つか」を見極めることこそ最優先事項だという。
2つ目の「最適なユースケースを発掘する能力」は、自社業務との適合性や優先順位付けにつながる重要なスキルだという。その具体例として、「縦軸に業務内容(例えば言葉や音声、画像など)、横軸にデジタル化率という2軸で業務全体をマトリクス化して分析する手法」を提案した。
最後に挙げられた「プロジェクトの投資妥当性を判断する能力」について「特に重要なのは、『一時停止』という選択肢を柔軟に検討すること」と指摘する。一度立ち止まり、進行中のプロジェクトへのリソース投入を見直すことで、新たな道筋や改善策が見えてくる場合があると述べ、状況に応じて再評価や一時停止といった選択肢を取る重要性を強調した。