生成AIがアプリ開発の変化:開発サイクル5フェーズへの影響
同社のプリンシパル・アナリストの甲元宏明氏の講演では、生成AIがアプリケーション開発にどのような変革をもたらしているかについて解説された。同氏はまず、ITRが実施した『IT投資動向調査2025』を引用し、企業が重要視する開発関連テーマとして「基幹系システムのクラウド化」「マルチクラウド環境の採用」「システム開発の内製化」「アジャイル開発/DevOpsの推進」の4点を挙げた。特に「アジャイル開発/DevOps」は、大企業を中心に年々取り組みが進んでおり、DX推進と相まって、アプリケーション開発における重要な潮流となっていると指摘した。
続いて甲元氏は、アプリケーション開発サイクルを「企画」「設計」「開発」「運用」「保守」の5つのフェーズに分類し、それぞれのフェーズで生成AIがどのような役割を果たしているかについて説明した。
企画フェーズでは、ブレーンストーミングやアイデア出し、フィードバック分析などにおいて生成AIの活用は有効だという。「例えば市場調査やビジネス分析においては、データからインサイトを引き出すことが可能だが、現状ではインプットデータの質や最新性が課題となり、現時点では限定的な活用にとどまっている」と述べた。
設計フェーズでは、「ユーザーストーリーやユースケース作成、プロトタイピングでも生成AIは力を発揮する」と甲元氏。要求分析や要件定義において生成AIが補助的な役割を果たしているが、一方で「アーキテクチャ設計など高度な技術判断が求められる領域ではまだまだ難しい」と現状についても触れた。
さらに開発フェーズでは、詳細設計やデータベース・スキーマ設計、API設計など複雑な作業には現時点で制約があるという。その一方で「コーディング補助やデバッグ支援には大きな効果がある」と述べた。またテストケース作成についても、「要件定義の精度次第だが、自動化ツールとの連携によって今後さらなる活用可能性がある」と将来展望について語った。
運用・保守フェーズではすでにAIOps(AIによる運用自動化)の概念が広まりつつあり、「モニタリングやログ分析などで生成AIは非常に高い有効性を示している」と述べた。さらにドキュメンテーション自動生成にも応用できる可能性があるという。
NG-DevOpsとは?生成AI時代のアプリ開発新モデルを解説
このように甲元氏は、アプリケーションの開発のそれぞれのフェーズでは、現状の生成AIの活用にはまだまだ制約があると慎重な見方を示した。その上で、各フェーズの課題は近いうちに解消されるだろうと予測する。そして、1つの可能性として「NG-DevOps」(Next Generation DevOps)という次世代型開発モデルを提唱した。この目的は既存ビジネスへの迅速な貢献と新規ビジネスの推進を可能にするアプリケーション開発の実現にある。その特徴は、企画から保守に至るまでの全工程において、高速で継続的なフィードバック・ループを確立することだとする。
従来のDevOpsと大きく異なる点は、AI支援を前提としている点だ。AIによる開発支援ツールを積極的に活用することで、開発効率の向上とコード品質の改善を図る。
「アダプタブルITアーキテクチャ」の特徴は、マイクロサービス、イミュタブル・アプリケーション、多種多様なリアルタイム・サービス間連携といった新しいITアーキテクチャを採用していることだという。
「一つのアプリケーションを使い続けるのではなく、どんどん使っては作っては廃棄し、常に新しいものを作っていく。大きなプラットフォームに依存せず、マイクロサービスや外部のSaaSなど多種多様なものと連携していく」──こうした開発姿勢がAI時代に相応しいと言う。
最後に甲元氏は、「AIはもはや脅威ではなく、開発チームの重要なメンバーとして捉えるべき存在。現時点では十分な成果が得られない領域でも、将来的には革新的な成果をもたらす可能性が高い。長期的な視点に立ったAI支援開発への戦略的な投資の推進が、今後のビジネス競争における重要な差別化要因となるだろう」とまとめた。