
IBMによるRed Hat買収(2019年7月)から約6年。2025年2月、IBMは新たにインフラ自動化とセキュリティのソリューションを提供するHashiCorpを買収した。この流れを受け、AI、コンテナ、自動化といった現代のIT環境に不可欠なテクノロジー領域において、3社の連携はどのような影響をもたらすのか。各社の強みを組み合わせ、ユーザーにどのような価値を提供できるのか。3社へのインタビューから探る。
オープン化とエコシステムの拡大、IBMとRed Hatの協業で目指す
Red Hat買収後、IBMは自社製品をRed Hatのコンテナプラットフォーム「Red Hat OpenShift(以下、OpenShift)」に適合させるところから協業を開始した。現在、IBMの主要ソフトウェアはOpenShift上で稼働しており、同社のマルチクラウド戦略も大きく前進している。
「AI関連ソフトウェアの基盤もOpenShiftにより支えられている」と、日本IBMの田中孝氏は語る。AIについても、関連するソフトウェアをコンテナ化し、OpenShiftやRed Hat Enterprise Linux(RHEL)上で稼働させるだけにとどまらない。

現在IBMは、独自開発した生成AIモデルの成果をオープンソース化するという、大きな方向転換を進めている。同社は以前から「watsonx」ブランドでAIに取り組み、独自の基盤モデル「Granite」を開発。当初クローズドだった同モデルは、オープンソース化された。これはIBMがAIへの取り組みにおいて自社製品だけでなく、オープンソースを含む、多様なモデルからユースケースにあわせて選択できるようにするもので、オープンモデルへとシフトする世界的な潮流にも合致する。
また、モデルのオープンソース化だけでなく、「オープンソースの世界でGraniteを育てていけるよう、Red Hatと一緒に『InstructLab』を作り、広く展開している」と田中氏。InstructLabは、Red HatとIBMが共同で立ち上げたオープンソースのAIコミュニティプロジェクトであり、その目的は誰もがAIの未来を形作れるよう、オープンソースライセンスのGraniteを共同で改善していくことだ。

InstructLabでは、複雑かつ高度なスキルを要するモデルのファインチューニングを、より多くのユーザーが実業務に沿った形で実施できるように支援する。エコシステムも含めたコミュニティ運営を得意とするRed Hatとの協業でInstructLabを通したコミュニティ形成を加速させたい考えだ。なお、コミュニティによるGraniteの改善は既に始まっている。
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谷川 耕一(タニカワ コウイチ)
EnterpriseZine/DB Online チーフキュレーターかつてAI、エキスパートシステムが流行っていたころに、開発エンジニアとしてIT業界に。その後UNIXの専門雑誌の編集者を経て、外資系ソフトウェアベンダーの製品マーケティング、広告、広報などの業務を経験。現在はフリーランスのITジャーナリスト...
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