待ったなしの中堅中小DXを救う強力な処方箋:地域中核企業が主治医を担う「ネットワーク型支援」の可能性
経済産業省も提唱する新たなDX支援アプローチの“その先”を考える

DXの機運が高まる中で、大企業ではそのための投資を積極的に進めている一方、中堅・中小企業では人材やリソースの確保に難儀し、結果的に事業継続を断念する企業も少なくない。このような状況を受け、経済産業省は2024年3月、中堅・中小企業のDX推進を支援する「DX支援ガイダンス:デジタル化から始める中堅・中小企業等の伴走支援アプローチ」を策定し、“地域の伴走役たる支援機関によるDX支援”の在り方を提唱している。この策定に携わり、長きにわたって様々な企業の事業変革を支援してきたPwC Japanの宮村和谷氏に、中堅・中小企業におけるDXの状況や課題、支援のあり方について聞いた。
経営破綻の危機……中堅・中小企業DXが「待ったなし」の理由
DXが企業の重要課題になって久しい。投資を積極的に進める大企業とは裏腹に、中堅・中小企業では思うようにDXを進められていない実態が見受けられる。中小企業庁が公表する「2023年版 中小企業白書」によると、デジタル化に未着手またはデジタイゼーション(単なるデータのデジタル化)の段階が全体の約3分の2を占めている状況だ。その多くが、IT/DX人材の確保に苦労するなど、人材・情報・資金の不足に課題を感じており、決して平易な道のりではないことがうかがえる。
企業の9割以上が中小企業で構成される日本では、大手企業だけがDXを進めても日本のサプライチェーン全体におけるDXは進んでいかない。しかし、中堅・中小企業にはその企業ならではの課題や事情があり、自分たちの力だけで解決することは非常に難しい現状がある。
PwC Japanで多くの企業のDXやビジネスを支援してきた宮村和谷氏は、中堅・中小企業の中でも「DXが進んでいる企業とそうでない企業の間に大きな差が生まれている」と指摘。その差は「経営者のDXに対する理解と意欲」によるところが大きいという。中堅・中小企業の事業方針は経営者の判断に大きく委ねられる傾向にあり、トップがDXやデジタル化をどう認識するかによって、その企業の“本気度”が変わってくる。経営者がDXの重要性を理解し、デジタル化や事業改革に積極的な姿勢を見せることで、組織は大きく動き出す。経営層の意思決定のスピードが速く、現場への浸透が早いのは、中堅・中小企業の強みともいえるだろう。
しかしながら、たとえ事業が好調でも、経営者の中には気力や体力が低下し、廃業を決めるケースは想像以上に多いと宮村氏は話す。たとえ事業を継続したくとも、後継者がいないなど事業承継の問題も露呈している。事業承継がかない、後継者にDX推進の意欲があるとしても、その担い手を確保できずに頓挫することも多い。そこをどう乗り越えていくかは、トップの意欲にかかわらず難しい問題であることは明らかだ。

バックオフィス業務に自らあたる経営者も……
また宮村氏によると、中堅・中小企業における経営者の中には、たとえば人事や労務、会計・給与計算などのバックオフィス実務を経営者自身で行っているケースも見られるという。そうでなくとも、古参の社員に任せきりの場合には、アナログからデジタルへの切り替えで生じる障壁や労力を鑑み、消極的になりがちだ。
こうした状況について、「本来、経営者は企業の戦略的な活動に時間を費やすべきですが、オペレーションマネジメントに工数をかけすぎているのは危機的な事態です。今後さらに人手不足が進むことは明白であり、事業の成長はもちろん現状維持でさえも、今よりさらに少ない人材でやりくりする必要が生じてきます。(これらの課題を抱える企業こそ)DXは必至です」と宮村氏は指摘し、中堅・中小企業におけるDXが経営存続に関わるほど“待ったなし”の状況であることを強調する。
加えて、中堅・中小企業でDXの気運が高まる背景には、ESG経営や経済安全保障の観点もあると同氏は話す。EUにおけるEVバッテリー規制のように、製品業では温室効果ガスなどのデータ取得・保存・開示が求められるようになる可能性が高く、ESG経営を実現するにあたってもDXは必須となってくるだろう。またEUの「欧州サイバーレジリエンス法」のように、調達先を含めたサプライチェーンマネジメントや基幹インフラの安全性確保なども求められつつある。日本でも2022年に「経済安全保障推進法」が成立しており、決して遠い他国の話ではない。
「日本経済が世界と渡り合うには、大企業だけでなく中堅・中小企業がデジタルガバナンスコードに対応し、DXを推進していく必要があります。どのような企業にとっても、DXができて初めて事業を継続・成長させられる時代が到来するでしょう」(宮村氏)
では、中堅・中小企業がDXを進めていくためには何が必要か。宮村氏は、中堅・中小企業のDXが進まない根本理由の一つである「担い手不足」を外部支援者の介入によって解消する必要があると指摘する。
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伊藤真美(イトウ マミ)
フリーランスのエディター&ライター。もともとは絵本の編集からスタートし、雑誌、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ビジネスやIT系を中心に、カタログやWebサイト、広報誌まで、メディアを問わずコンテンツディレクションを行っている。
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