
AI基盤インフラ需要の急増に伴い、データセンターの電力消費と熱問題が深刻化している。グローバルデジタルインフラストラクチャーおよびデータセンター企業のエクイニクスは5月12日、AIを支える基盤技術である液体冷却に関する記者説明会を開催。同社xScaleのマネージングディレクターであるティファニー・オシアス(Tiffany Osias)氏が、次世代AIインフラを支える液体冷却技術の重要性と具体的な導入戦略について説明した。
エクイニクスによると、生成AIやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)の普及に伴い、従来の空冷方式では対応できない熱問題が発生している。特にAIモデルの学習には膨大なデータ処理とコンピューティングリソースが必要となり、最新のNVIDIA GB 200のようなチップセットでは消費電力あたりのパフォーマンスが飛躍的に向上している一方、放熱対策が課題となっている。
「最新のAIチップは性能向上に伴い発熱量も増加しています。効率的な熱対策なしには、持続可能なAIインフラの実現は困難です」とオシアス氏は強調する。
オシアス氏によると、チップの世代が進むにつれて、消費電力に対するパフォーマンスの比率が大きく向上しており、「直近のNVIDIAのGB200では、以前の消費電力とパフォーマンスの比率が逆転している」と述べ、高性能化するAIチップを効率的に冷却する技術の重要性を訴えた。

液体冷却の次世代アプローチ
同社が提案する液体冷却技術は3つのタイプに分類される。最初に企業が導入することが多い「リアドア型熱交換器」(Liquid to Air)は、機器に近い部分に冷媒を持ってくる初級レベルの技術。現在の主流は「ダイレクトチップ直冷式」(Liquid to Liquid)で、コールドプレートに冷たい液冷を流し、その上にIT機器を設置する中級レベルの技術。最も高度な「液浸冷却」(Liquid to Liquid)は、機器全体を冷却液に浸す上級レベルの手法だという。

デル・テクノロジーズが行った調査によると、「データセンター関連の電気代の30%は、実は機器を冷やすためのファンに使われている」ことが判明。エクイニクスはファンを使わない液冷によりこの部分のコスト削減が可能だと指摘する。
オシアス氏は液体冷却技術の具体的なメリットとして、電力効率の大幅改善、設置スペースの縮小、そして排熱の有効活用の3点を挙げた。
ファンレス設計による電力消費の削減効果は約30%と試算されているほか、高密度実装による物理的スペースの削減も大きなメリットだという。「複数のキャビネットが必要だったものを1つのキャビネットくらいに縮小することができます。物理的なスペースを小さくできるということは、設置する機器やコンポーネントが少なくなるということなので、製造コストや輸送代、さらには製造時に排出する二酸化炭素も削減できるのです」とオシアス氏は説明した。
特に注目すべきは排熱の2次利用だ。オシアス氏によれば「冷却した後の排熱の質も非常に高い」ため、様々な活用が可能となる。具体例として「ヘルシンキでは何千という住宅の暖房に排熱を使いました。2024年の夏、パリオリンピックの水泳で使われたアクアティックセンターの温水プールも、弊社のデータセンターから出た排熱を利用しました」と事例を紹介。「ヨーロッパでは、ディストリクト(地区)ヒーティングというコンセプトが非常に広まっています」と述べ、データセンターの排熱活用が地域社会にも貢献できることを強調した。

サステナビリティへの取り組み
エクイニクスは業界に先駆けて「2030年までに100%クリーンで再生可能なエネルギーの使用を目指す」という目標を掲げており、現在すでに「世界全体で使用エネルギーの96%を再生可能エネルギーで賄っている」ことを明らかにした。
具体的な取り組みとして、同社は長期電力購入契約(PPA)を通じた再生可能エネルギー事業者との連携を進めており、最近では日本の太陽光発電会社とPPAを締結。オシアス氏は「PPAは再生可能エネルギーのビジネスを行っている会社の将来に投資をするというものです。長期的にその再生可能エネルギーを購入しますという契約ですので、再生可能エネルギーのビジネスを展開している会社にとっても長期的な予測が立てられます」と説明した。
さらに敷地内での自前発電も実施しており、ダブリンのデータセンターでは水素燃料電池を使用。また環境プロジェクト特化型の資金調達として50億ドル規模のグリーンボンドを発行しており、「世界でも最大規模のグリーンボンド活用企業」だと自負している。

NVIDIAとの戦略的パートナーシップ
現在のAIデータセンターにおいて、NVIDIAが発表した最新GPUロードマップでは水冷技術が重要な要素として位置づけられている。この技術動向を踏まえ、エクイニクスはNVIDIAと長年にわたる戦略的パートナーシップを構築している。オシアス氏は記者からの質問に対し、両社の協業が3つの柱に基づいていることを詳細に説明した。
まず1つ目の柱は「ケイパビリティの構築」だという。「NVIDIAが作っているものが、弊社のデータセンターの中で正常に機能するかどうかを確認すること」を重視し、「NVIDIAの機器には空冷の部分と液冷の部分があります。液冷の部分を何%くらいにして、空冷を何%くらいにするのが最も適正なのかといった検証を行ってきました」と話す。
2つ目の柱は「共同オファリング」で、DGX SuperPODなどの共同サービス開発と提供を進めている。「お客様がDGXを使う上での管理や実装にあたって、確実にヘルプが必要だろうということで、共同でマネージドサービスのようなものを開発してきました」と説明。
3つ目は「Go to Market」(GTM)の部分で、「NVIDIAと共同でお客様へのリーチ、お客様への販売も行ってきました」と語った。さらにDell TechnologiesやHPE、SuperMicroなどのOEMパートナーとも連携し、「それらの製品の中でも最適化した形で展開できるように調整しています」と、エコシステム全体での協力体制を強調した。

医療、製造、物流分野での事例を紹介
オシアス氏は、同社のインフラを活用したAIビジネス事例も複数紹介した。医療分野ではHarrison.aiが胸部X線写真の診断にAIを活用し、「8.5万枚のレントゲン写真をデータとしてAIモデルを学習させた」結果、「人間の放射線技師が目で診断していた時に比べて精度が45%改善された」という。
物流分野ではOutriderが「貨物のハンドリングの生産性を高めることと、ヤード(現場)の安全性を高める」ためにAIを活用。センサーを取り付けたヤードの環境で情報を取り込み、AIで学習させることで効率化を実現した。
自動車分野では、タイヤメーカーのContinentalが先進的なアプローチを導入している。同社は、製造するタイヤに高精度センサーを組み込み、タイヤ内圧の変化、走行モード、ブレーキ操作のタイミングなど詳細な走行データをリアルタイムで収集。これらのデータをAIで分析することで、耐久性と安全性を両立した次世代タイヤの開発を加速させている。この取り組みにより「月間ディープラーニング実験数が従来比14倍以上に増加し、製品開発サイクルの大幅な短縮」を実現したという。
製造業のSEGA SAMMYはAIを活用して「どういう商品を展開すれば成功の確率が高いか、あるいはファミリー向けの製品ではどのような特徴が市場で受け入れられるか」を詳細に分析。玩具の設計バリエーション数を従来の100倍に拡大し、市場分析の効率性を80%向上させた。
また、直近の事例としては、Hyundaiは「1,000万ものコネクテッドカーのサブスクリプション」からデータを収集・分析し、「提供する音楽やカーナビゲーションなどのアプリケーションの応答性」の改善に役立てているという。

エクイニクスが開発する次世代の液体冷却データセンターは、NVIDIAのDGXなどの高性能AI処理基盤を支え、企業のAI導入を加速させる重要な基盤となることが強調された。