SMBCグループCDIO流“組織を変える”DX:「Olive」利用者数を100万増やした人材戦略とは
銀行員を社長に積極登用、デジタル子会社でキャリアの可能性を広げる

DXを成し遂げるには、既存の仕組みを打破する変革が必要だ。では、その変革はどのように実現すればいいのだろうか。三井住友フィナンシャル(以下、SMBC)グループは、2023年に個人向けデジタル金融サービス「Olive」を開始し、500万超のアカウントを獲得。2025年5月には法人向け「Trunk」をリリースするなど、旧来の金融機関の枠組みを超え、デジタルサービスで成果を上げつつある。2025年5月14日に開催された「freee TOGO World 2025」では、同グループCDIO(チーフ・デジタル・イノベーション・オフィサー)の磯和啓雄氏とフリー 代表取締役CEOの佐々木大輔氏が対談。両社はデジタル口座連携や合弁会社「インクループ」の設立など、多面的な協業を進めており、SMBC自身のDXの歩みを通じた体験談から、企業の変革を後押しするヒントが示された。
IT領域で協業を進めるフリーとSMBCの狙い
企業の変革を進めるためには、組織内の多様な立場のメンバーとの合意形成と協調が欠かせない。スモールビジネス向けにSaaS型クラウドサービスを展開するフリーでも、創業初期にはチームビルディングに関する課題があったとCEOの佐々木大輔氏は語る。「まだ会社が小さい頃、エンジニアと営業の関係がぎくしゃくしていた時期がありました。営業からは『エンジニアは朝も来ないけど、本当に仕事をしているのか』と言われ、エンジニア側は『いいものを作れば自然に売れる世界を目指しているのに、なぜ営業が無理に売ろうとするのか』と反発していたんです」と振り返る。
そんな状況下で見たある映画が乗り越えるきっかけになったという。人種間の緊張が渦巻く中で結成されたフットボールチームの物語に触れ、「これに比べたら自分の抱える問題なんて大したことないと思えた」と佐々木氏は語った。
磯和啓雄氏は、11年前ほどからSMBCグループのDXに携わってきた人物だ。最初に手がけたのは、現在は「Olive」として知られる個人向け金融サービスだったという。当時は「アプリを開くとブラウザが立ち上がり、指で拡大しないと口座番号すら入力できない時代だった」と振り返り、そこからネイティブアプリとしてのUXの再構築に着手したと説明した。
Oliveは2年で500万アカウントを達成。さらに同社は、これまで5年をかけて開発してきた法人向けサービス「Trunk」を5月26日にリリースした。法人口座開設を「最短翌日」に短縮した点がサービスの大きな特長だという。
磯和氏は、Trunkのリリース時点からフリーとの連携を前提として設計していることを強調する。「法人のお客様は、SMBCだけでなく複数の銀行口座を利用しています。そこで、最初からフリーにシステムの裏側に入ってもらうことで、すべての口座を一元管理できるようにしました」と語る。さらに、スマホで請求書の写真を撮るとデータ化され、振込予約まで自動化される機能なども2025年度中のリリースを予定しているという。
両社の協業は、SaaS導入の相談や選定支援を担うSMBC子会社プラリタウンが提供するデジタルプラットフォーム「PlariTown」に関するものから、実際の導入支援を行うフリーとの合弁会社「インクループ」の設立にまで広がっている。インクループ設立の背景について、佐々木氏は「システムに詳しい担当者がいない中小企業でも、SaaSを活用できるようにしたいと考えました」と語った。

社外から人材を集め、チームを1年で10倍の規模に
デジタルサービスアプリの開発に取り組み始めたきっかけについて、磯和氏はこう語る。
「私がDXを担当し始めた11年前、デジタル口座のマンスリーアクティブユーザーは約300万人で、過去10年間ずっと変わっていなかった。一方で、銀行の個人顧客は2,000万人以上もいる。これはあまりにもったいないと思ったんです」(磯和氏)
最初の挑戦はチームづくりだった。磯和氏は、「銀行員だけで開発を行うのは絶対に無理だと思いました」と振り返る。そこで、社外から人材を集め、わずか7人だったチームを1年で70人規模に拡大。テクノロジー企業や広告代理店など、さまざまな企業から人を集めたのだ。磯和氏は「出向でも常駐でもいいから、とにかく私の近くに座ってもらいました」と当時を語る。
UX改善において重視したのが、徹底したユーザーテストだ。磯和氏は「本店ビルの近くに観察用の設備を備えたスペースを借り、マジックミラー越しにユーザーを観察できるようにしました」と説明。参加者にはアプリ体験のバイトとして募集し、銀行関連施設とは明かさずに調査を実施した。「開発者がユーザーの厳しい声を直接聞くことで、泣き出すような場面もありましたが、それがUX改善に直結しました」と語る。
これらの取り組みは確かな成果を生んだ。「10年間横ばいだったアクティブユーザーが400万人に増加し、それをきっかけに社内からも機能追加の要望が次々と寄せられるようになっていきました」と磯和氏は言う。
さらに転機となったのは、「Beyond & Connect」というキーワードを掲げ、グループの枠を超えた連携を進めたことだった。象徴的な例が、証券連携の選択だ。SMBCは、グループ内の日興証券ではなく、外部のSBI証券との連携を選んだ。プラットフォーム全体としての利便性強化を目指したのだ。社内では「グループに囲い込むための仕組みではないか」との反発もあったというが、「囲い込んでも使われなければ意味がない。むしろ広くつながった方がお客様が増えます」と磯和氏は説明した。
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森 英信(モリ ヒデノブ)
就職情報誌やMac雑誌の編集業務、モバイルコンテンツ制作会社勤務を経て、2005年に編集プロダクション業務とWebシステム開発事業を展開する会社・アンジーを創業した。編集プロダクション業務では、日本語と英語でのテック関連事例や海外スタートアップのインタビュー、イベントレポートなどの企画・取材・執筆・...
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